不世出の「職人」、円熟の作品〜 漫画「青い空を、白い雲がかけてった」
2016年11月29日 更新

不世出の「職人」、円熟の作品〜 漫画「青い空を、白い雲がかけてった」

76年から81年まで断続的に少年チャンピオンに掲載された「青い空を、白い雲がかけてった」。白黒のおかしくも美しくかなしげな画。作者あすなひろしの技は、当時の読者の想像以上のものでした—

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wada y (1607827)

「番長」。
番長といっても、まあ、ツトムの中学校は平和そうだ。徒党を組んでなにかやっているような感じはない。一人で登場することの方が多い。
もちろん学業はからっきしだが、弱いものイジメするような人間ではなく、女には手を上げれないと夏子先生にはいいようにやりこまれる。直情で涙脆い一面も。
曲がったことが大嫌いで、大人でもチンピラ相手でも背中を見せない。
「強いからめだっちまうんだよ/強いヤツはな自分より強いヤツがいるとむしょうに腹が立つことがあるもんだ」
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wada y (1607967)

大人相手に中学生とは思えない凄み、、

あすなひろしはアクションシーンもばっちりきまった構図。そしてどこか哀しげだ
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wada y (1607971)

ツトムの両親
家族の会話はいつもからかい合いの、仲良し夫婦。公民館かというほど、ヨシベエや夏子先生も茶の間に。
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wada y (1607973)

「見知らぬライバルたちと新鮮な気持ちで勉強しようと」塾に行ってみたものの、
なぜかヨシベエやらいつもの級友に、なぜか番長まで、、
〈作者の勝手な…わんぱたーんわんぱたーん〉とマンガの御都合主義を自嘲したギャグです^^
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あすなひろしの画力

今作のおかしみは、テンポや躍動感も含めた、あすな氏の画の巧さにほかなりません。
べた塗りの黒に白い修正液で線を入れる、、なんて手抜き(じゃなくてふつうの漫画はそうなんですがf^^;)のやり方はしません。学ランやスーツの黒に一本入った白い線、、そういった画も、もとより細い線の部分を抜いて黒く塗りつぶしてあるのです。なんと繊細精緻な仕事!
レタリングの書き文字も専門のプロ以上の技。吹き出しのなかの文字も原稿にきっちりと写植顔負けの文字が列んでいたといいます。
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このカケアミ、スクリーントーンではなくすべて肉筆で描かれたものです。
むしろ、あすな氏からカケアミが漫画家たちに流行り、その後カケアミのスクリーントーンができたとか。このころはもうカケアミスクリーントーンはあるはずですが、もちろん氏はそんなものは使いません。肉筆。
どころか、ベタ(黒塗り)が少ない、ホワイト(修正液)は使わない、スクリーントーンもほとんど使わない(筆者は氏がスクリーントーンを使った場面は記憶にありませんでした)、、

下のコマの書き文字もいいですね。
wada y (1607992)

これ、どれも黒く塗った上にあとから白で描いたんではないです。もとから白い部分を抜いてるんです、、!
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wada y (1607994)

例外はほとんどありません。この雪の一粒一粒も!
あすな氏の技法は、効率や省力でなく、すべて画のため。
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人物もギャグタッチからシリアスな雰囲気まで、自在に、それも同じ人物を場面々々で微妙に変えて、、というのは、すでに見ていただいた通り、、
wada y (1607997)

〈ヨシベエのことをおもってるツトム—と勝手に想像しているヨシベエ〉と、ツトムの〈現実〉

右のページの白も、先ほど説明した通りの、、(!)
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wada y (1608005)

いつもながら夏子先生をからかうツトムたち、、
しばしの静寂のあと、この画の躍動感!^^
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見ての通り、静物も精緻なタッチ、人物もどのスタイルで描いても魅力的ですが、
あすな氏の描く動物たちのまた可愛いこと!
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ツトムのうちの猫、タマ。タマのエピソードで描かれた一話もあるのですが、それはぜひ手に取って読んでみて下さい。
ニャニャ、ですが、ときにはツトムの両親と意思疎通したり、お遣いに行ったり、肩揉んだり(!)^^

犬の方は、ヨシベエのうちの犬で、名前はツトム(^^)
wada y (1608012)

犬でもタヌキでも、名前はツトムです^^;
ツトム(人間の方ですね)の家に迷い込んだタヌキのツトム。かわいいなあ。
via wada y
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ちなみに、ツトムの背中のツトムの尻尾を見て、タヌキがツトムに化けたと思って倒れる両親、、(リアル^^)

彷徨の人、あすなひろし

彷徨の中途で、、

少女漫画から始まって、青年誌、少年誌と場がどこであっても、その技量を惜しみなく注いだ、あすな氏ですが、その作品は読み切りがほとんどで単行本は決して多くはありませんし、発行部数が少なくて入手困難なものも多々あります。

「青い空を、」のあとも作品は決して目にふれやすいかたちではありませんでした、、88年にコミックトムに掲載された(このころ、漫画仕事はもうトムだけにかぎっていたそうです。田舎の漫画少年だった筆者は当時知らなかった!)「林檎も匂わない」、、それ以来あすな氏の新作が読まれることがないまま、2001年、氏の訃報を聞きます。
私的なトラブルに伴い東京を離れ40歳半ばで、実家のある東広島市に帰る[2][6]。漫画よりも肉体労働に重点を置くようになり、晩年は非常に寡作になる[2]。2001年、肺癌のため死去[1]。享年60。
引用先に氏の多岐膨大な作品リストがあります(ぜんぶを網羅しているのかは分かりませんが、、)。ご覧下さい。
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  • 井上博喜 2021/8/5 16:08

    小学生だったかな。読んでました。多分、今も実家にあるかもしれません。
    3巻が終わりになっていたのですが、私の記憶では、単行本の最終話の後に2話分が残っていると思うのです。文庫版の完全版に載っているのかな?懐かしさで、つい見入ってしまいました。ありがとうございます。

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