【森田童子】ドラマ「高校教師」の主題歌『ぼくたちの失敗』で注目を浴びた謎多き歌手
2017年4月27日 更新

【森田童子】ドラマ「高校教師」の主題歌『ぼくたちの失敗』で注目を浴びた謎多き歌手

1993年、テレビドラマ「高校教師」の主題歌に『ぼくたちの失敗』が起用されて話題となった森田童子。 謎に包まれた経歴や独特な世界観、引退や復帰について紹介。

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【本名不詳】謎のシンガーソングライター・森田童子

森田 童子(もりた どうじ)

森田 童子(もりた どうじ)

1952年1月15日生まれ
本名不詳(森田童子は芸名)
出身地:東京都
カーリー・ヘアにサングラスというスタイルで、コンサートはもちろんレコードジャケットなどでも素顔を見せることはなかった。
本名は非公開で実生活についてもほとんど公表しなかった。
写真や映像もモノクロが多く、カラーのものはほとんど存在しない。
作詞した歌詞の内容は、ありのままの実体験ではなく願望を投影したものであるとしており、普段も寡黙で、独特の世界観を表現した作品に自分の生活感を滲ませることを避けていたとされる。
芸名「童子」は『笛吹童子』が由来

芸名「童子」は『笛吹童子』が由来

『笛吹童子』はラジオドラマで人気を博し、映画化・テレビドラマ化もされた時代劇。
主人公の菊丸は笛の名手であり、笛の音で汚れに満ちた人の心を洗うことができる。
この時代劇ヒーロー「笛吹童子」から『童子』を芸名に付けたと森田童子は数少ないインタビューで語っている。
ラジオの深夜放送ではサイモン&ガーファンクルをよく聴いていた。

学園闘争が吹き荒れる1960年代後半に高校生になり、東京教育大学の学生運動と交流があった。
だが、1970年に高校を中退、胸の病によって北海道で転地治療することに。

多感な思春期、そして青春時代に『自分は何もできなかった』。
森田童子の歌に漂う空虚感・孤独感はこの時の経験がベースになっている。

そして1972年の夏、20歳の時に友人の死を知らせるはがきが届いたのをきっかけに森田は歌い始める。
この亡くなった友人をモチーフにした曲がデビュー曲となる「さよならぼくのともだち」である。

森田童子-さよなら ぼくの ともだち - YouTube

1975年11月1日、ポリドールからリリースされた。
1975年、アルバム「グッドバイ」、シングル「さよならぼくのともだち」でデビュー。
以後主にライブハウスを中心に活動し、1983年までにアルバム7枚、シングル4枚をリリース。
レコーディングの編曲、演奏はアコースティックギターの第一人者石川鷹彦(元六文銭)が担当した。

森田童子のプロデュースを手がけた松村慶子は、「本人は髪型をポニーテールにして、どこにでもいる少女のような印象でした。でも作品には、聴いているとイメージの扉を開かれて慰撫されるような唯一無二のフィーリングがあったので、絶対に何かある、これは行ける!と直感しました。ただし、その独特の世界は本人が歌わないと響いてこないので、あんたが歌ったほうがいいと説得したんです」と当時を振り返っている。
その松村に対しても、森田は私語をほとんど発することは無かったという。

一部ではカリスマ的な人気を博しつつも森田のファンは全国的に見れば少数で、森田本人がメジャー化を望んでいなかったこともあり、その作品はマスコミなどに表立って紹介されることもなかった。

松田聖子や中森明菜らアイドルが音楽業界を席巻する中、1983年の新宿ロフトでのライブを最後に、森田童子は引退を宣言することなく活動を休止。

当時の所属レコード会社の宣伝プロデューサーだった市川義夫は、「80年代になると、もう自分の居場所はないと思ったのか、新曲を作らなくなった。その意味では、溶けていくように消えていなくなったというのでしょう」と語っている。

活動休止から10年後、ドラマ『高校教師』主題歌に「ぼくたちの失敗」が起用され注目を浴びる。

1993年、テレビドラマ「高校教師」の主題歌に森田童子が1976年にリリースした「ぼくたちの失敗」が使われる。
か細いつぶやくようなボーカルに切ないメロディー。
ドラマが放映される17年も前にレコードへ吹きこまれていた曲だったが、あまりにぴったりはまっていたため、書き下ろしの新曲と思い違いした人も少なくなかった。

森田童子「ぼくたちの失敗」 - YouTube

1976年11月21日にポリドールより発売された森田童子の2枚目のオリジナル・アルバム『マザー・スカイ=きみは悲しみの青い空をひとりで飛べるか=』に収録されていた。
ドラマ【高校教師】

ドラマ【高校教師】

真田広之&桜井幸子のコンビで「教師と生徒の愛」という禁断のテーマを描いた名作ドラマ。
ヒットメーカー・野島伸司がTBSで初めて連続ドラマの脚本を手掛け、最終回に33%という高視聴率を記録した。
ラストシーンに描かれた禁断の愛の結末は大きな波紋を投げかけた。
男性教師と女子高生が禁断の恋に落ちて行く物哀しいドラマは、レイプシーンなどもあって話題となったが、同時に「この主題歌を歌っているのは誰?」と森田童子が一躍脚光を浴び、レコード会社には連日問い合わせが殺到した。

「僕たちの失敗」は約100万枚の大ヒットを記録。
中高生を中心に新たに多くのファンを獲得し、カラオケでも裏声を出し物真似で「僕たちの失敗」を歌う若者が急増した。
それに伴って発売されたベスト『ぼくたちの失敗 森田童子/ベスト・コレクション』もチャート1位を記録、約27万枚を売り上げた。

しかし、本人はこの騒ぎに対し、現在は主婦業に専念しており、音楽活動を再開する気は全くないとだけ発言し、以降は完全に沈黙を守った。

なぜドラマ「高校教師」の主題歌に森田童子『ぼくたちの失敗』が起用されたのか?

森田童子「ぼくたちの失敗」は、ドラマ「高校教師」の脚本家・野島伸司とプロデューサー・伊藤一尋によって主題歌に使われることになった。
脚本家・野島伸司(のじま しんじ)

脚本家・野島伸司(のじま しんじ)

1963年3月4日、新潟県柏崎市生まれ
青年期は埼玉県浦和市で育つ。中央大学法学部中退後、渡米してUCLAに通う。
帰国後はフリーターを経てシナリオライターを志し、1988年フジテレビ系連続ドラマ「君が嘘をついた」で脚本家デビュー。
4作目の「101回目のプロポーズ」でブレイクし、人気脚本家となる。
1993年からはTBSのプロデューサー・伊藤一尋と社会派作品を制作。
『高校教師』『人間・失格』『未成年』はいずれもTBS系列金曜10時(金曜ドラマ)の枠で放送され、「野島三部作」と呼ばれた。

森田童子のベスト盤CDに掲載された野島伸司の寄稿文

高校時代の友人に神山というヤツがいた。 真夏でも真っ赤なマフラーを首にしめていた彼は、長身でとても涼しい目をした秀才だった。 勉強などしてる所を見た事もなかったが、常に学年トップの成績を維持していた。

笑うと少し皮肉屋っぽく見える彼が、ある日僕に、「森田童子のライブに行こう」と誘った。 浦和の高校から僕たちは電車に乗り、新宿のロフトという地下のライブハウスに潜っていった。

今(※1993年)から12年くらい前の話で、僕達の世代には存在しない、時折社会科の教師が熱っぽく語る学生運動の頃、その時代の歌を歌っている、そんな事を道すがら彼は例の皮肉笑いを浮かべて話してくれた。

感動も痛みも絶望も知らない僕らの世代に、ただ潜在的に吐き出したい何かを、暗い照明の中、彼女の舌足らずな透き通るような声が、店の一番後ろの壁に寄り掛かって立っていた僕の涙腺をこわした。 神山は珍しく笑ったりせずに、僕の反応を黙って見ていたように思う。

その次の日の朝、通学路の途中で彼は口から泡を吹いて癲癇(てんかん)で倒れていた。 遠目にあの赤いマフラーが血のように見えたが、後で聞くと、「あれで唾を拭くんだ」と缶ビールをうがいをするように喉でガラガラさせて彼は笑った。

いつしか僕は脚本家という職業を持ち、卒業してから彼と会う事もなくなったが、「高校教師」というドラマで「森田童子」の曲を使ったのは、初めて見せた神山の弱点に僕が感じた、10年以上も前の自分の、歪んだ虚栄心を吐き出したい衝動だったのかもしれない。
via CD「僕たちの失敗―森田童子ベストコレクション」の歌詞カードより
また、プロデューサーの伊藤一尋は、
「最近、いかにも歌を売らんかなという状況があって、鼻につくものがあった。二人とも学生時代に森田童子を聴いていて、単純に好きだから、という理由で決めた」
「人の弱さをいとおしむように歌う森田童子の音楽の世界観が、ドラマのそれと、まさに共鳴し合っていました。野島さんも、聞きながらドラマの構想を練っていると、イメージがあふれ出てきそうだと意気ごんでいた」と語っている。

森田童子の歌に感じる『闇』や『陰』

友人の死をきっかけに歌い始めたという森田童子の歌には、ひたすら暗く湿った印象がつきまとう。
透明感のあるか細い声、抑揚のない独特な歌唱方法、淋しさと切なさが散りばめられた文学的な歌詞。
そして、素顔が全く見えないビジュアル。

森田童子は、神秘さを飛び越えて、怖さすら感じさせる世界観を持っている。
だが、同時にどことなく懐かしく身近にも感じる不思議な歌手である。
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