少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

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『バナナブレッドのプディング』 「月刊セブンティーン」...

『バナナブレッドのプディング』 「月刊セブンティーン」11月号 1977年

作品冒頭、転校生として登場した主人公に教師が
なぜそんな世界の終わりみたいな顔をしているのかと聞いた時の答え
「きょうはあしたの前日だから、だからこわくてしかたないんですわ」
そこだけでやられた女子もいるようです。
via 朝日ソノラマ 大島弓子選集第7巻『バナナブレッドのプディング』p170 1986年
主人公の衣良(いら)の言動は、はっきり言ってぶっ飛んでいてエキセントリックで
しかも繊細。
読んでいる自分は「いくら思春期女子でもここまで顕著じゃない」と
思ってはいても
自分の中に確かに「一瞬でくるりと狂気に反転しそうな危うさと脆さ」があり
それが、暗闇の中で綱渡りをしていて、ひやりと湧き上がってくるような
そんな自分自身のこわさがほの見える。

『バナナブレッドのプディング』にインスパイアされた女子が
「男にはわかんねーよ」と言ってしまうのは
きっとそんなところに理由があるのではないかと。
『バナナブレッドのプディング』 「月刊セブンティーン」...

『バナナブレッドのプディング』 「月刊セブンティーン」3月号 1978年

パニックを起こした衣良に対することば。
「そうしたら きみはおちついて うなずいて
 またあしたね というだろう」
これは冒頭の「きょうはあしたの前日だから」の
答えでもあるわけですね。
via 朝日ソノラマ 大島弓子選集第7巻『バナナブレッドのプディング』p354 1986年
『すばらしき昼食』(「ASUKA」6月号 1981年)の中に
「固いつぼみが
 くるりと花になるように
 みなれた日常が
 ぽっかり形を変えそうな
 春の夜は
 なにやらこわい」
というモノローグがありますが
こうした、日常にひそむ「見えないもの」を掘りおこす
「視点の反転」「発想の転換」的なファクターが集約したものが
次に発表された『綿の国星』なのではないでしょうか。

ただの擬人化マンガではない『綿の国星』

『綿の国星』(わたのくにほし)は、大島弓子による日本の漫画作品。1978年から1987年にかけて『LaLa』(白泉社)に不定期連載された。1979年(昭和54年)度第3回講談社漫画賞少女部門受賞作。
『綿の国星』 「LaLa」5月号 1978年

『綿の国星』 「LaLa」5月号 1978年

元祖「猫耳」ですよ~!
チビ猫は自分が人間だと思っているので、この姿で登場します。
毛皮は「立派な服」だと思っているのです。
via MFコミックス『大島弓子が選んだ大島弓子選集』2 p4 2008年
擬人化が普通に行われている現在と違い、確かに当時は新鮮な表現だったでしょう。
ですが、ただの可愛い生後3か月の仔猫の擬人化なら、
これほどのブームは起きなかったろうと思います。

ここで「チビ猫」の眼を通して語られる人間の世界は
人間が見ているものからは思いもよらない「驚き」があふれています。
普通に見慣れた日常の風景や
交わしている習慣やしぐさやことば
それが実はこんなにびっくりするような、
キラキラした、ドキドキするような世界なのだと。
『綿の国星』 「LaLa」5月号 1978年

『綿の国星』 「LaLa」5月号 1978年

「チビ猫」飼い主の時夫。予備校生。
チビ猫と出会い共に過ごすことで
世界に対する目と
自分の心構えがガラッと変わります。
via MFコミックス『大島弓子が選んだ大島弓子選集』2 p93 2008年
橋本治は『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』の中で
大島弓子を「ハッピーエンドの女王」と呼び、
川上未映子は「読んだ人をひとり残らず抱きしめる」と評しました。
大島弓子の描くマンガは
思いもよらない視点やことばや行動によって、新しい世界を見せてくれて
その世界で新生した自分を、ふんわりと抱きしめてくれるような
そんな祝福に満ちた作品が多いと思います。

ムーブメントを背景に花開いた作家たち

人間の身体の描線と狂気と 山岸凉子

山岸凉子は1947(昭和22)年、北海道空知郡生まれ。
異常に甘いもの好きの家族の中で育ちます。本人は甘いものが苦手。
デビューは1969年『りぼんコミック』掲載の「レフトアンドライト」。
1971年にりぼんにて連載開始された『アラベスク』は、少女漫画界初の本格バレエ漫画として大人気を得て、花とゆめに場を移して描かれた第二部では、華麗なイラスト的表現を、また、少女である主人公が大人の女性へと成長する様子を描くなど、当時は前人未到であった手法やテーマを積極的に開拓していった。
山岸凉子は、萩尾望都の項でも竹宮惠子の項でも登場しましたが
「りぼん」(集英社)という、少女マンガ枠を逸脱しない方針の場所で描いていたため
作品の筋立ての独特さを発揮するのは、少し遅れます。
しかしながら、1971年に「りぼん」で連載を開始した『アラベスク』は
「バレエスポ根」という従来の少女マンガカテゴリの中で描きながらも
独自の描線、独自の身体のライン表現、登場人物の設定など
リアルを追求した本格的な「バレエ」の世界を描き、注目を集めました。
萩尾 「雨とコスモス」でがらっと絵柄が変わった。
山岸 変えた(笑)。「野獣のような顔」って、非常に不評で(笑)。
萩尾 そのとき初めて、アシスタントに行ったら、山岸さんが「多分これで読者が、汐が引くように引いていくだろう」って、言ってました(笑)。
山岸 言ってました? うー、わかってたんだ。(略)
萩尾 可愛い丸顔じゃないと、編集さんは絶対OKじゃなくて。いま現在はちょっと顔が長くても構わないけど、当時はとにかく、男の子も女の子も丸い顔でっていう感じだったので。なので、「どうしてもデビューしたいんだったら、丸い顔で」って言われて、それならもう、その覚悟でって、丸い顔で始められたと。だから、元々本来の絵柄はあの長い顔のほうで、それで戻したんだって。
山岸 非常に不評だったです。
萩尾 でも「アラベスク」には似合った絵柄でしたね。ノンナは可愛いし、ミロノフ先生はかっこいいし。違和感なかったんですけど?
Otome continue vol.6 対談より抜粋
右は1971年6月号
左は1971年8月号です
たしかに顔が全然違うけど
言われるほど「野獣のような」顔かなあ?

でももうすでに山岸凉子のテイストです
今見ても違和感がありません
大泉サロンのメンバーがヨーロッパ旅行に行った際、同行した山岸凉子は
「編集部からは(『はいからさんが通る』の)大和和紀のような絵をと指導されたが
 新しいバレエマンガは、筋肉がゴツゴツしたような絵で描きたい」
と語っていたそうです。
『アラベスク』第二部開始回の見開き扉絵

『アラベスク』第二部開始回の見開き扉絵

1974年6月「花とゆめ」創刊号です。
集英社から白泉社に移って、さらに描きやすくなったのでは?
山岸凉子の肉体描写メソッドはもう完成形に近いですね。
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