『鳥人』セルゲイ・ブブカ。棒高跳びの世界記録を35回更新した男
2016年11月25日 更新

『鳥人』セルゲイ・ブブカ。棒高跳びの世界記録を35回更新した男

棒高跳び=セルゲイ・ブブカ。類稀な身体能力で世界陸上はなんと6連覇。ソウルオリンピックでも金メダルを獲得。世界記録を35回更新し、更新不可能と言われた圧倒的な世界記録を打ち立てた男の経歴について

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1988年ソウルオリンピック。
当時24歳だった棒高跳びセルゲイ・ブブカは世界でただ一人、6m超えの記録を持つ、金メダルの大本命。
米ソ冷戦のこの時代、アメリカとメダル争いを繰り広げるソビエト連邦にとって、ブブカは絶対に金メダルを取らなくてはいけない存在であった。

ブブカは5m70をクリアすると、75、80、85を連続パス。
次に跳んだのは5m90。
風はなく、最高のコンディションだったが、1回目、2回目はまさかの失敗。
そして失敗が許されない3回目の跳躍。
誰よりも早い助走で加速したブブカは高く宙に舞った。
そして、悲願のオリンピック金メダルを獲得。
このときは自身が持つ6m06の世界記録更新を棄権している。

【動画】ソウルオリンピックで金メダルを獲得したセルゲイ・ブブカ

誰が負けてもいいが、僕が負けることだけは人々が許さないだろう。今までで一番苦しい試合だった
via セルゲイ・ブブカ
ブブカが、ソウルオリンピックをこう振り返っている。
米ソ冷戦時代に、国家の威信をかけて五輪に出場したブブカにかかるプレッシャーは、半端なものではなかった。

決勝記録なしに終わったバルセロナオリンピック

5m70からブブカは跳び始めた。
当時6m11の世界記録を持っていたブブカにとっては楽に跳べて当然の高さであった。
だが、タイミングが合わず、1回目はバーを足で落とし、2回目も体が十分に越えていながら落下の際に胸がバーに触れて失敗。
ブブカは気持ちを落ち着かせるために3回目をパスして5メートル75への挑戦に切り替えた。
しかし、結果はまたも失敗。
最も金メダルに近い男といわれた鳥人ブブカは、一度もバーを越えることなく決勝記録なしに終わった。

予選で棄権したアトランタオリンピック

ブブカは6m14の圧倒的な世界記録保持者として参加。
しかし、両足のアキレス腱に痛みを抱えたブブカは予選で棄権。
はだしのまま競技場を後にした。

最後のオリンピックとなったシドニーオリンピック

36歳のブブカは2000年、4度目のオリンピックとしてシドニーに参加。
だが、度重なるアキレス腱の故障に苦しみ、手術とリハビリを繰り返してきたブブカに『鳥人』と呼ばれたころの力強いジャンプは戻っていなかった。

全盛期なら慣らし程度の5m70。
しかし一回目はタイミングが合わず、バーの下を走り抜けた。
二回目、体が上がったものの、空中でバーを引っ掛けてしまう。
そして三回目、今度は体が上がらなかった。

記録なしで予選落ち。
鳥人と呼ばれた男、セルゲイ・ブブカはこのシドニーオリンピックを最後に引退した。

引退後、現在までのセルゲイ・ブブカ

引退後は、故郷ウクライナに「ブブカ・スポーツクラブ」を設立したほか孤児施設に通うなど、 貧困下で精力的に慈善活動をおこなっている。
2000年9月、IOC(国際オリンピック委員会)の理事に選出、 2012年の再選を受けて4期目を務めている。
2005年よりウクライナオリンピック委員会会長も務めている。
2007年8月よりIAAF(国際陸上競技連盟)の副会長を務め、2011年に再選を受けて2期目を務めている
現在のセルゲイ・ブブカ

現在のセルゲイ・ブブカ

息子はプロテニスプレーヤー

次男のセルゲイ・ブブカ・ジュニアはプロテニスプレーヤーで、2009年の島津全日本室内テニス選手権大会に優勝している。
セルゲイ・ブブカ・ジュニア

セルゲイ・ブブカ・ジュニア

190センチの長身から叩き込む豪快なサーブが武器。
名前も偉大な父と同じであり、「子供の頃から『ブブカの息子』と言われ続けて、だんだんそれも気にならなくなった。でも棒高跳びはやらなくて良かったかな」。「もっと進歩して、棒高跳びの名選手の息子ではなく、テニス選手のブブカとして有名になりたい」と語っている。
TBSの石井大裕アナウンサーはジュニアのテニスプレイヤーだった時代に、ブブカ・ジュニアとダブルスのパートナーであった。
「(ブブカ・ジュニアに)雑誌のBUBKAを渡したこともあります」と明かしている。

2012年、パリにある友人宅のアパートの窓から転落。
複数箇所を骨折する重傷を負い、命に別状はなかったが『鳥人ブブカの息子は空を飛べない』などとニュースになってしまう。

2014年、不可能と言われていたブブカの記録が破られる。

陸上男子棒高跳びでロンドン五輪金メダリストのルノー・ラビレニ(フランス)が2014年2月15日、ウクライナのドネツクで行われた室内競技会で6メートル16の室内世界新記録を樹立。
「鳥人」と呼ばれたセルゲイ・ブブカの故郷で、二度と破れらることがないと言われた世界記録を21年ぶりに更新した。

【動画】ルノー・ラビレニが棒高跳びの世界記録を更新した瞬間

ロンドンオリンピックで金メダルを獲得しても、世界的な知名度を獲得したとまでは言えなかったルノー・ラビレニだが、『鳥人ブブカの記録を破った男』として世界的に有名になった。
ルノー・ラビレニが出した6m16cmは室内大会での記録である。
だが、IAAF(国際陸上競技連盟)が検討した結果、屋内外合わせての世界新記録となった。

陸上競技では室内と屋外では風など大きな影響があるため、通常は別々の記録とされる。
だが、前世界記録保持者のブブカの記録が屋内外で1cmの違いしかないことから「棒高跳びにおいては記録を統一しても影響はない」となり今回のルノー・ラビレニの記録は統一記録になった。

記録を破られてなお、ブブカがいかに大きな存在であることが改めて示された。
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