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映画では、二人のランナーの苦悩と葛藤を描きながら仲間同士が支え合い、オリンピックで栄光を勝ち取る姿がとても良かったです。
映画解説
1924年のパリ・オリンピックを舞台に実在した人物を描いたスポーツ青春群像。
監督のヒュー・ハドソンは、コマーシャルやドキュメンタリー出身の力量を発揮し、長短のショットやスローモーションを組み合わせて、人間が走る姿を感動的なまでに高めています。
私が高校2年生の時の市川崑監督作品「東京オリンピック」は記録か、芸術かという論争を巻き起こしましたが、本作を見てそれを思い出しました。
ユダヤ人であるハロルドは、人種偏見に打ち勝つために走る。敬虔なクリスチャンであるエリックは、俊足を神の贈り物と受け止め、『神のために走る』。
ベン・クロス、イアン・チャールソン共に飾りのない演技で好感がもてます。
プロのコーチを演ずるベテラン、イアン・ホルム(「未来世紀ブラジル」「ロード・オブ・ザ・リング」など)も場面を引き締めてくれました。
映画ではユダヤ偏見の場面があまりないのですが、やはりキリスト教の国にあっては相当根深い問題なのでありましょう。
また、聖職者エリックが安息日の日曜日には出場を拒否するといったエピソードも、いかにもキリスト教の国であり、個の主張を守り抜いた意志を清々しく感じさせます。
実在のハロルドは、その後、弁護士、キャスター、スポーツ組織指導者という立場でイギリスのアマチュアスポーツ界に貢献し1978年に亡くなりました。
一方エリックは、生まれ故郷の中国に渡り宣教師となり、日本軍の捕虜収容所に抑留されたまま1945年に亡くなったそうです。
実話を基にしているが、脚色された部分も多く。最後にリデルがパリに到着後、予選日がキリスト教の安息日である日曜だったことから、出場を拒否。本来400mに出場する予定だった選手が、「自分はすでに110mハードルで銀メダルを獲得しているので、その枠を譲る」と申し出て、急遽、交代したことになっているが、これは脚色。実際は100mの予選日は数ヶ月前から分っていて、リデルは短期間ながら400mのトレーニングに励んでいた。またパリ五輪で110mハードルでイギリス人選手がメダルを獲得した事実もない。
史実では、リデルは男子200mにも出場しており、銅メダルを獲得している。ハロルドも出場していたが、6位に終わっている。男子4×100mリレーでは、ハロルドは銀メダルを獲得している。
映画と実話が違うというのはよくある事ですが、映画『炎のランナー』は、それでもよく出来た作品です。
テーマ―曲
テーマ曲の作曲者は、ギリシャの音楽家ヴァンゲリスです。
1983年にコナミの人気アーケードゲーム「ハイパーオリンピック」オープニングBGMとして使用され、映画サントラと共に、オリンピック(特に夏季)を象徴するテーマ曲として広く認知された。
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20年代のスポーツ事情
当時のブリテンには「スポーツの専門家」、スポーツから報酬を得る職業なるものは存在しません。主として〈オクスブリッジ〉など有名大学の学生たちや余暇を持つ富裕家系の若者たちが、アマチュアリズムを第一義とするスポーツ界のトップエリートを構成していました。
遠征や訓練など費用がかかるスポーツを報酬なしに継続できるのは、大金持ちだけしかいませんから、当然のことでした。
彼らは、家門の巨額の資産をもとにして毎年、これまたたいそうな収益を得ていました。だから、スポーツの世界ほかに報酬や収入を得る必要を認めていません。しかし、富によっては得られない名誉を求めているのです。
つまり、エリートたちからの称賛や賛美、民衆からの尊敬とか栄光・栄誉をかちとりたいというのです。
オリンピックへの参加や入賞は、大変な名誉でしたが、あくまで(専門の職業としての統治や経済活動、研究などの営みの一方にある)余暇の余技として位置づけられていました。徹底したアマチュアリズムの賛美でした。