竹原慎二 ガン? 勝つのはオレじゃい! じゃあの
2019年1月17日 更新

竹原慎二 ガン? 勝つのはオレじゃい! じゃあの

「ガンはもともと自分の細胞のコピーミスを免疫力で抑えられなかったためにできたものだ。 だから治せるのは自分しかいない」 現役時代、竹原慎二は、どんな勝負でも真っ向から挑んでいった。 ガンとの戦いにおいても、弱音を吐いたり落ち込んだりしたこともあったが、周囲に八つ当たりしたり自暴自棄になったことはなかった。

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抗ガン剤

How To Give Injection Doxorubicin?

4月2日、抗ガン剤治療が始まった。
シスプラチンが146ml投与される。
少量だが劇薬のため、その前後に生理食塩水や電解質や吐き気止めなど大量の点滴をしなければならなかった。
また抗ガン剤を投与後、体重が2㎏以上、増えていると利尿剤を使って排出させなければならなかった。
9時から点滴が始まり、15時にシスプラチン、すべて終わったのは22時だった。
4月3日、ジェムザールが投与された。
4月4日、投薬はないが、抗ガン剤の影響か全身に力が入らず強い倦怠感が襲ってきた。
この後、食欲も落ちていった。
4月7日、翌日に予定されている1クール目最後の投薬が行えるかどうかの血液検査があった。
抗ガン剤は、細胞分裂が活発な細胞に作用するため、骨髄にも影響し、血液をつくる働きが低下する。
竹原慎二の身体は、検査の結果、2回の投薬で白血球は半分に激減していることがわかった。
翌日の投薬はギリギリ行えるということだった。
これ以上下がると休薬しなければならないという。
また下半身に発疹が出てきたため、かゆみ止めの薬をもらった。
4月8日、ジェムザール投与。
4月9日、一時退院が許された。
自宅に帰り、久しぶりに風呂に入ると、鼻血が出た。
病院に連絡すると
「抗ガン剤で血管が弱っているため、熱い風呂や激しい運動は控えるように注意してください。
鼻血がすぐ止まるようならいいですが、あまりに頻繁だったり値が止まらなかったりする場合は、止血剤を使うので連絡してください」
と注意された。
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へその下から大腿ま出ていた発疹がひどくなり、かゆみに耐えきれずボクシング好きの早川医師に診てもらった。
「発疹は抗ガン剤の反応だから効いている証拠。
いい兆候だから頑張れ」
4月19日、髪の毛が大量に抜けはじめる。
軽くつまむだけで抜けるので、なるべく触らないようにする。
4月21日、本来は入院日だったが、所属選手の上林巨人の試合があったため1日延期。
竹原慎二は、抵抗力が弱っているため、外出時は必ずマスクをつけ、人混みは避けなければならないが、この日は、試合が始まる直前まで車の中で待機した。
そして上林巨人は、アニス・セウフィンを一方的に攻め、レフリーは5Rに試合をストップした。
そして4月22日、竹原慎二は2クール目の抗ガン剤治療を受けるために再入院。
4月23日、ジェムザール投与。
4月24日、シスプラチン投与。
翌日から副作用が始まった。
たびたび倦怠感に襲われ、日によって調子のよい日と悪い日があった。
4月29日、2クール目最後のジェムザール投与の日だったが、血液検査で、白血球が基準値を下回り、1週間の休薬が決まった。
そして白血球を増やすための注射が背中に射たれた。
そして4月30日、投与可能なまでに回復したため、最後のジェムザールが投与され、2クールが終了した。
5月1日に一時退院した。
入院前に88㎏あった体重は、この頃には80㎏になっていた。

ダヴィンチ手術

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一時退院して1週間後の5月7日、外来で受診し血液検査を行った。
そして医師から
「手術はダヴィンチでやっていないか?」
と提案された。
通常の開腹手術は、臍の上から30~35㎝を切り開くが、ダヴィンチ手術、正式には「内視鏡下手術用ロボット(da vinchi s)支援下膀胱全摘術」では、臍の下数㎝と数ヵ所の穴を空けるだけでよい。
拡大鏡カメラを入れて、肉眼では見えづらい神経などを傷つけずガンを取り残しにくい。
患者の肉体的な負担は少なく、術後の痛みは1/10~2/10に軽減され、回復も早くなる。

【手術支援ロボット「ダヴィンチ」】 マスターコントローラ

しかし膀胱癌へのダヴィンチ手術は、保険適応外で、費用350万円は全額自己負担となる。
またまだ東大病院でも1人、全国的にも臨床例が少なかったため、未知の不安があった。
その分、臨床試験として大学側が100万円を支払ってくれるため、手術費は安くなるという。
「ダヴィンチ手術でお願いします」
竹原慎二はいった。
そして手術は、抗ガン剤の効果が順調であれば、6月12日に決まった。
5月21日、抗ガン剤の効果をみるため、血液検査とCT撮影が行われた。
結果は、骨盤のリンパ節にあった転移ガンは1/4ほどに縮小していた。
肺、腎臓、肝臓、その他への遠隔転移はなかった。
医師はいった。
「ここで抗ガン剤をやめて予定通り6月12日の手術へ向けて準備を進めていきましょう」
5月30日、執刀医から手術の説明を受け、同意書を渡された。
最後に医師はいった
「今日は1度にいろいろ説明しちゃったから家に帰ってまた疑問点などが出てきたらいつでも聞いて」
それから心電図と肺活量を測定し、採血して保存し自己血輸血に備えた。

体力 気力 免疫力UP作戦

ビワエキスの作り方

家に帰って手術まで、竹原慎二はできるだけ免疫力を上げておこうといろいろなことを試みた。
まずは「ビワの葉こんにゃくシップ」
こんにゃくを茹でて温め、腹、膀胱の上辺りにビワの葉を貼って、上からタオルに包んだこんにゃくを乗せ、15分間安静にする。
これは低体温は免疫力を下げ、ガン細胞は増殖しやすいということ。
こんにゃくは洗って保存し何度が使用した。
これは生命力が豊かなビワを使った「ビワの葉治療法」という方法を参考に行われたもので、知り合いから大量にもらったビワは、シップだけでなく、葉っぱや種を玄米焼酎に漬け、エキスをつくり、それを飲んだり、漬け種を食べた。
ビワ以外にも、フコイダン(モズク、コンブ、ワカメなどの海藻に含まれる滑り成分)、野菜ジュース、ノニジュース、ヤクルト400など食事療法、水分をとりながら風呂にしっかり浸かって体温を上げる温浴療法も行った。
入院中に低下するであろう体力と気力を養うために散歩やゴルフに行き、当分休むことになるジムにも顔を出した。
そしてできるだけ笑うことも意識した。
子供のこと、親のこと、保険、ローン、仕事、葬儀・・・
入院中に何かあったときのために、妻に自分の思いを伝えた。
どうしても自分の口からいっておかなければならないことも・・・
「延命治療はしなくていいからね。
自分が逆の立場でもきっとそうするから最後は楽にしてほしい。
頼んだよ」
その一方で
また退院後に達成する目標を10個立ててノートに書いた。

「息子が20歳になったら寿司屋でサシ飲み」
「娘の高校の卒業式は校門の前で肩を組んで写真を撮る」
「フルマラソン完走」
・・・

気持ちが沈みかけたら、目標だけでなくやりたいことや前向きな言葉を書いた。
カラオケに行き3時間、熱唱したり、パワースポットに行ったり、鏡をみて無理やり笑ってみたり、お笑いのDVDを観た。
積極的に周囲の人に
「ありがとう」
といい、夜は起きているとアレコレ考えてしまうので寝た。
それでも苦しいときは涙が止まるまで泣いた。

竹原 慎二のゴルフスウィング

入院前日は、夫婦でゴルフをして、夕方から家族で食事。
アルコールや肉類は控えていたが、赤ワインとモヒートを飲み、鶏肉も食べた。
6月9日、入院当日。
早起きして、ゆっくり風呂に入り、野菜ジュースを飲む。
(絶対に勝つぞ)
昼食から流動食が出された。
これ以降は病院が出すもの以外食べられなくなるというので、最後に売店の弁当を食べた。
執刀医から最後の説明があり、同意書にサインした。
手術で膀胱を全摘すれば尿路変更をしなければならない。
その方法は、「回腸導管」と「新膀胱」の2つがあり、以前から竹原慎二は選択を迫られた。
「回腸導管」は、臍の横に排出口をつくって袋をつける方法。
「新膀胱」は、自分の小腸を50㎝ほど切り取って新しい膀胱をつくる方法。
新膀胱は、外見がいいが、合併症や再発のリスクがあった。
また脳とつながっていないので尿意を感じない。
尿を試すぎると巨大膀胱になってしまうと元に戻らない。
一定の時間おきにトイレに行かなくてはならず、夜中も起きなければならない。
回腸導管は、一見、グロテスクだが、袋に溜まった尿をトイレに捨てる方式なので夜も起きなくてよい。
また合併症や転移の心配はない。
よくよく考えたうえで、竹原慎二は新膀胱を選択した。
しかし手術開始後、すぐに麻酔で眠っている竹原慎二の尿道から細胞をとって、ガンがないか検査をする。
もし尿道にガンが発見されたら、尿道も摘出されてしまう。
新膀胱手術はできなくなり、回腸導管手術に切り替わる。
そのときに備え、竹原慎二の脇腹には、袋をつける位置にマジックでマーキングが行われ、消えないように透明なシールが貼られた。

手術

手術室に入ります~

6月11日、手術前日、腸の中を空にするため下剤を2リットル飲んだ。
夜ご飯はカットされた。
夜、1人で寝ていると明日の手術が心配で不安でたまらなかった。
(もし死んだらどうなるんだ?
家は?
子供はどうなる?)
ボクシングでも、試合が近づいてくると、孤独になり追い詰められた。
そして襲ってくる恐怖心と向き合い、克服する方法は
「勝つしかないんだ」
という結論に達した。
勝つためにできることは練習しかなく、練習に没頭し恐怖心を封じ込めた。
試合当日は今までやってきたことを思い出す。
「勝つ、勝つ、勝つ、絶対勝つ
勝つのは俺じゃ」
自分に暗示をかけて闘争心を掻き立て、リングに上がった。
手術前夜、1人の病室でも同じように言い聞かせた。
(大丈夫だ。
勝つ、勝つ、絶対に勝つ)
6月12日、朝から看護師が血圧を測ったり点滴を入れたりして手術の準備をした。
(もうやるだけだ)
竹原慎二の気持ちはスッキリしていた。
時間になると手術室まで、自分でスタンドに吊るした点滴を押しながら歩いていった。
そして手術室に入り、ベッドに寝て、口にマスクを当てられ、注射をされた。
竹原慎二は、それ以降の記憶が全くない。
こうして8時半に手術が始まった。
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「竹原さん、終わりましたよ」
看護師の声で目を覚ました竹原慎二は手術室のベッドの上にいた。
8時間の予定だった手術だったが、11時間かかっていた。
摘出した膀胱は、病理検査に出され、2週間後に結果が出るという。
出血量は、1ℓあり、手術前に採った自分の血が輸血された。
21時30分、竹原慎二はICUで家族と会った。
ICUに入る面会者は持ち物を外に置き、消毒をしてマスクをして入らなければならなかった。
「パパ」
「ああ」
竹原慎二はまだ麻酔が効いてボーっとしていた。
「予定通りの手術だったよ」
「いま何時?」
「夜の9時半だよ」
面会時間が過ぎ、家族が帰り、薄暗くなったICUの中で1人になった竹原慎二を、痛みが襲ってきた
麻酔が切れ、腹をえぐるような今まで味わったことがないようなとんでもない強烈な痛さだった。
「痛いです」
何本も管がつながっていた体でナースコールを押し、点滴に痛み止めを入れてもらった。
しかし全然効かなかった。
そして次に寒さが襲ってきた。
「寒いです」
看護師が湯たんぽを足に当ててくれ、少し楽になったが、今度は暑くなった。
「暑いです」
湯たんぽがとられ少し布団ををめくってもらった
エコノミー症候群を予防するため、脚にはキツいタイツを履かされた。
その上に袋が巻かれ、エアーで膨らんだり抜けたりしてマッサージされるのも痛かった。
「痛い、痛いです」
たまらずナースコールした。
痛い、寒い、暑いの繰り返しが朝まで続いた。
術後の痛みは、筋肉が多い人ほど大きい傾向があった。
また竹原慎二は、手術中の麻酔の効きも悪く、最大量が投与されたため、術後の痛み止めが打てなかった。
生きるために行った手術の後は地獄の苦しみだった。
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