澤穂希の少女時代  受け入れた運命、切り開いた人生、抗った試練 、夢を持つことが生み出す力、その威力。
2023年7月30日 更新

澤穂希の少女時代 受け入れた運命、切り開いた人生、抗った試練 、夢を持つことが生み出す力、その威力。

男子より粘り強く、ひたむきで謙虚で前向きでポジティブでパワーのある日本女子サッカーの激動の歴史。座右の銘は「夢はみるものではなく叶えるもの」 夢を持つことが生み出す力、その威力を知る澤穂希の魂あふれる戦い。

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平日は練習、週末は試合で、試合の翌日が休みとなるので、ベレーザの練習は月曜日だけが休み。
澤穂希は、学校があるため、丸1日休んだり、遊んだりすることはできなかった。
月曜日の放課後にクラスメイトと遊んで、
「もっと遊びたいな」
と思うこともあったが、練習を休みたいとか休もうと考えたことはなかった。
それどころか風邪や熱くらいでは休まず、インフルエンザにかかったときにコーチに
「帰れ」
といわれた。
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府ロクでは自信満々、伸び伸びとプレーしていた澤穂希だったが、ベレーザには未経験のプレッシャーがあった。
まず女子だけのチームであるということ。
そして大人のチーム独特の
「ミスしたら怒られる」
という雰囲気。
これまでは男子とはいえ同い年ばかりだったが、ベレーザは10代後半~20代の「お姉さん」ばかり。
身体能力の差は明らかで、中1の澤は同じように走れず、トレーニングもこなせず、
「できなーい!」
と叫びながらやった。
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極度の負けず嫌いで、府ロク時代、
「練習のときにジャンケンで負けた人がビブスをつけるんですが、そのジャンケンも負けたくなかった」
そしてミニゲームが始まっても
「負けたくなくてバチバチ当たり合ったりしていました」
大人になって、なでしこジャパンのチームメイトの川澄奈穂美と「食わず嫌い王選手権」に出演したときも負けると本気で悔しがった。
「悔しさは感情というより感覚に近い。
感覚は使わないと鈍ってしまう。
悔しさを出さなかったり、感じなくなれば、負けても悔しくないから勝てなくてもかまわなくなってしまう」
金銭面で非情に堅実な澤穂希は、ギャンブルはしないが、
「対等の勝負を挑まれたら身を引くことはない。
わざと負けたりなど絶対にしないし、わざと勝たせてもらうなんてもっとあり得ない。
全力でぶつかるだけ」
しかしいつも勝てるとは限らず、心底悔しくて仕方ないとき、澤は泣く。
「強いということは泣かないということではなく、泣いた後にまた笑える心こそが強さ」
そして
「悔しい!」
と大声でいう。
すると
「なんだかスッキリする」
「明日から前を向ける」
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ベレーザの練習はキツかったが、あきらめや逃げの気持ちはまったくなく、むしろ
「ここでやればもっともっと上手になれる」
「いつか日本代表に入れる」
と希望でいっぱいだった。
「毎日サッカーが楽しいから、中学校に行ってる間も、早く練習に行きたいって楽しみで仕方がなかった。
1時間前からグラウンドに行って1人でボールを蹴ってましたね」
そして練習が始まると日本屈指の強豪チームの中で、夢のような気分になることもあった。
「雲の上の存在だった憧れの本田美登里さん、高倉麻子さん、野田朱美さんを前に、わぁ、私、なんてすごい人たちとサッカーしているんだろうと毎日興奮し、練習なのに、試合以上に緊張してガチガチになっていました。
当時、練習や試合で右のハーフのポジションに入ることが多く、右サイドバックには本田さんがいて、ボールを持つとどうしても本田さんを頼ってボールを戻してしまうんです。
緊張しちゃって、前に相手選手がいるかどうかなんて冷静にみえていなかったんでしょうね。
あるとき本田さんにピッチで怒鳴られました。
『コラッ、澤!どうしてボールを戻すの!前を向いて自分で行きなさい!』って。
この「前を向いて自分で行く」は、憧れの人たちに囲まれたあのベレーザのピッチで私が最初に教えてもらったことかもしれない。
今でも覚えています」
お姉さんたちは、練習後にドライブに連れていってくれたりもした。
そして恋愛話などもして、澤穂希はサッカー以外にもたくさん学んでいたが、野田朱実に
「澤は耳年増だから。
大人の話を聞いていないようで聞いているから小声で話さないと」
といわれた。

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よみうりランド内の専用グラウンドは、男子チームである東京ヴェルディも練習していた。
この頃、日本男子サッカーは初のプロサッカーリーグ誕生に向けて準備を進めている、いわゆる「Jリーグ前夜」の時期。
澤穂希は、そんなイチバン熱い時期に熱く練習する男たちを傍でみることができた。
その技術やフィジカル、そしてサッカーに対する意識が高さ、姿勢は尊敬せずにいられなかった。
しかしある日、「ボール回し」に呼ばれたときは、
「なんで?」
と思った。
ボール回しとは、数人がひたすらパスを回し、1人がひたすら奪いにいくという練習で、数人が1人を取り囲む形になるので「鳥かご」ともいわれる。
慣れ親しんだ練習なのでやることに問題はなかったが、違和感を感じたのはメンバー。
ヴェルディのラモス瑠偉、松木安太郎、武田修宏、北澤豪、そしてベレーザの本田美登里、高倉麻子、野田朱美がつくる輪の中に、チームに入ったばかりの中1女子が放り込まれたのである。
そしてボールを奪う役となり、振り回され続けた。
「想像通り、みなさん・・・・特にラモスさんなんて絶対手を抜きませんから・・・・
1回もボールをとれなくてずっと輪の中にいました。
股抜きされると1回ペナとか、プロなのに子供相手にいっさい手加減なし。
一生懸命やっているのに皆さん、もう笑っちゃうほどうまくて、とにかく1度もボールを奪えませんでしたね」
1時間以上、輪の中にいて1度もボールをとれなかった澤は、練習が終わった後、笑顔のラモスに声をかけられた。
「ボールは自分で奪わなかったら一生手にできない。
そして1度奪ったボールはどんなことがあっても失っちゃダメだ」
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