2021年6月21日 更新
『ガンプラり歩き旅』その80 ~あり得たかもしれない「もう一つのZガンダム」旧1/144HGキット版完全紹介!~
ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、メカ単位での紹介をする大好評連載。
新展開では『機動戦士Zガンダム』(1985年)『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)まで、旧キットから最新のHGUCまで、商品の発売順に、再現画像と共に網羅紹介していこうという趣向になっております!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、
『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、以前こちらでも紹介した「HGガンダム」に続いて企画発売された、旧HG版Zガンダムを紹介していきます!
ゼータガンダム 1/144 HG 1990年5月
以前、この連載での
「『ガンプラり歩き旅』その20 ~栄光の初代HG 1/144 ガンダムを追え!~」で紹介した、90年代初頭にバンダイが、ガンプラファンの間に驚愕と感動をもたらした「初代HGシリーズ」だが、その第2弾で発売されたのは、「ガンダムの次と言えば」で当然のようにゼータガンダムであった。
この後『機動戦士ガンダムF91』(1991年)のメインキットでスタンダードになる、キットのパーツ自体が多色成型で色分けされている「システムインジェクション」という、今ではロストテクノロジーが用いられたのもこの初代HGシリーズからで、そのインパクトと見栄えの凄まじさは、ガンプラが明らかに、次のステージへ移行しようとした姿勢と技術を形にしたものだった。
シリーズ第1弾のRX-78 ガンダムは、とにかく箱を開けた途端の驚きが時代革新だったのだが、第2弾のゼータガンダムに求められたのは旧キットでは1/144では不可能だった「飛行形態に変形する」ことであった。
この後、第3弾7月にはガンダムMK-Ⅱが1000円で発売されるのであるが、そちらは今の目でも通用する傑作で(というか、ガンプラの歴史の中では、ドムと同等に「ガンダムMK-Ⅱにハズレなし」も定番である)、それはそれで構わないのだが、ことこのゼータガンダムの場合、歴史を遡ってみると「アニメ設定画にはとことん忠実だが、いざ完成してみると、肘と手首以外ほぼ動かなかった1/144」と「ウェイブライダーへの変形を、過去にも未来にもない、完全変形で成し遂げておきながら、モビル・スーツ形態が見るも無残な1/100」の二択であった(無変形でそこそこ関節が動く1/60も存在はしていたが)。
旧キットの1/144を覚えている人には「まず全関節が平均ガンプラレベルで動く」かつ「多色成型で塗装要らずでほぼアニメどおりの塗り分けが完成する」なおかつ「飛行形態に変形する」というトリプルミッションが、どれだけ難易度が高いかは想像がつくだろう。
旧キットをあのレベルで発売してから、まだ5年しか技術の蓄積と進歩はしていないのだ。
唯一のメリットとしては「究極決定版なのだから、価格帯はある程度上がっても構わない」といったところであろうか。
しかし、たった5年でこのハードルを3つ乗り越えろというのはかなりの無理ゲーであり、だが当時のバンダイ技術陣はやってのけたのだ。一つだけ裏技を使って……。
ゼータガンダムの変形は、この1990年においても、他の可変型モビル・スーツの変形機構と比較しても格段に複雑で再現が難しく、それゆえ1/100旧キットなどは完全にプロポーションを捨て去って変形が成立していたのだが、それをこの時期の技術で他の要素と並行成立しつつ、1/144スケールで再現することは無謀とも言える命題で、それを叶えたのは少なくとも2018年現在でも、RG版ただ一つである(それすらも、源変形システムの「シールドのスライド」はオミットされており、完全ではない)。
しかし当時のバンダイの技術陣は、この命題に果敢に挑戦していた。
それは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のガンプラの売り上げが今一歩期待値に届かず、主戦力がSDガンダムへ移行しつつあった時期に、映像新作のガンダムが翌年控えてるとはいえ、その新世紀ガンダム(『機動戦士ガンダムF91』1991年)でのガンプラに、新機軸と新技術を投入するために、バンダイは自社ガンプラ初のリメイク商法に乗り出し、ガンプラというブランドを盤石の物にする必要性があったからだ。
この時期のHGブランドは、一方でガンプラ10周年を賑わした金字塔お祭り企画であったのかもしれないが、同時に来るべきガンプラ新時代の露払いとなるべき試金石であったとも言えた。
しかし、ゼータガンダムの変形は、上でも書いたが特に複雑で繊細だ。股関節の構造が前後や左右への開脚を変形と同時にこなすにはかなりのクリアランスの調整が必要だし、両腕がボディ前部の中に収納されるギミックも、設定準拠だと肩基部の白いプレートアーマーのヒンジ一つで賄わねばならず、またその腕が収納されるスペース確保も難しい。
しかし、ここまでは試行錯誤でどうにかなるレベルである。1/100旧キットは腕の間に頭部を収納するスペースまでをも律儀に設けてしまった結果、異常に胸の幅が広い上半身になってしまっていたが、ここでHG版以降定番になる「変形時、頭部は差し替えで取り外す仕様」が初めて取り入れられる。その手法を用いれば、肩基部プレートと胸の空間を上手く擦り合わせれば、胸の幅は解決できない問題ではない。
そして、この時期バンダイが取り入れ始めた新技術の数々。
一つのパーツで多色成型をするシステムインジェクションに関しては、旧HG版ガンダムの回で解説を述べたが、それと同等かそれ以上に今回のミッションに恩恵をもたらしたのは、ポリキャップ、ポリ部品の進化であった。
『Zガンダム』放映当時のような「A、B、2種類のポリキャップ」だけではなく、この時期バンダイは商品単位でポリパーツを個別に用意するフォーマットを完成しつつあり、この旧HGゼータガンダムでも、膝の関節がパーツ形状そのままにポリ製であったり、股間の変形を司る支柱がオリジナルのポリパーツで作られているなど、見るべき点は多い。
今の時代の目で見れば、肘や膝の関節がポリキャップむき出しなのはマイナス評価の定番なのは充分承知だが、HGUC初期までのガンプラの歴史を見ても、ポリパーツの進化と発展がガンプラそのものの進化と発展であった歴史的功績は、計り知れないものがあると言って良いだろう。
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