渡嘉敷勝男 「世界戦で倒し倒されの試合をし最終ラウンド、僕の手が上がり、倒れ、病院に運ばれ、死ぬ」
2016年11月25日 更新

渡嘉敷勝男 「世界戦で倒し倒されの試合をし最終ラウンド、僕の手が上がり、倒れ、病院に運ばれ、死ぬ」

渡嘉敷勝男の理想は、高倉健さんのように「弱きを助け強きをくじき」そして具志堅さんと「世界戦で倒し倒されの試合をし最終ラウンド、僕の手が上がり、倒れ、病院に運ばれ死ぬ」ことだった

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宝塚のナポレオン(3時間しか寝ずに遊んでいたから)

 (1641210)

生まれは沖縄県コザ市泡瀬だが
生後10カ月ほどで兵庫県宝塚市のリトル沖縄と呼ばれる沖縄出身者がたくさんいる地域に引っ越し
幼稚園、小学校では沖縄訛りのためイジメられたりしてつらい思いもした
父親は
暴れん坊で外で怒ればストリートファイト、家の中でもハンマーや工具を投げた
母は
子を連れて何度も家を出たが夫を放っておけずに数日後に帰った
中1の冬
7歳上の兄に酒場に連れていかれ初めてお酒を飲んだとき
気持ちがよくなってトイレのいくと
開けっ放しの窓に吹き込む冷たい風が気持ちよかった
そして空を見上げたら月があった
フト思った
「俺は普通の人間じゃないんだ」
それは体が小さて学校で整列すると常に1番前で
「前に習え」をしたことが少なかったからではなく
もっと人間の内容や質のことだった

弱気を助け強気をくじく

 (1641206)

浪速工業高等学校(現:星翔高等学校)に願書を出しに行くとき
この高校はスゴいことに気づいた渡嘉敷は
どうすればいいか考え
髪型は
オールバックにアイパーをあてソリコミを入れた
ソリコミは
左右のバランスをとるうちにドンドン深くなり鉄腕アトムみたいになった
そしてヒザまでくる長ランで入学式にのぞんだ
体育館で並んでいると
他にも同じような格好をした人間はいるのに
背が低くて1番前だったせいか
教師が飛んで来ていった
「君はもう退学だ!
今すぐ帰りなさい!」
といった
「ちょっと待ってえなあ
親も大変な金を払っとんやで
今来たとこやないか
今返す気かい
ちょっと考え直せよ」
「ダメだ」
「じゃあどうすればエエねん」
「その長ランを脱ぎなさい」
渡嘉敷が上着を脱ぐと
下のすごくて
まるで漁師か川で釣りをする人のように
ウエストがチクビより上にきていた
教師はうなった
「ウーン
もういっぺん着なさい」
「どっちやねん!」

吉田君

 (1641211)

各クラスには各校の番長クラスがいた
中でも1年2組にヒトラーのような顔をしたまるで50歳くらいの男がいて
「たぶんアイツが1番(ケンカが)強い」
といわれていた
渡嘉敷は
「俺が確かめてきたるわ」
と飛んでいきトイレに連れ込むとヒトラーはすぐに謝った
「吉田さんにいわれて
お前は表の番をやれって
お前にケンカ売ってきたら俺が出てやるからといわれて」
吉田君とは
渡嘉敷のクラスで前の席に座っている男だった
吉田君は渡嘉敷のようにペタンコのカバンではなく
ちゃんと教科書を入れた分厚いカバンを持ち
全然(ケンカが)強そうにみえなかった
渡嘉敷と吉田君は仲良くなった
あるときラグビー部の石本君と喫茶店に入ると
中は大音量の音楽が鳴り女の子が踊っていた
背中を向けて踊っている女の子を渡嘉敷は後ろから蹴った
「男に尻向けて踊ってるんやないわ」
そしてカウンターに座ってコーヒーを頼むとママがいった
「あんた帰り!」
「なんやそれは」
「あそこに座ってるのは
・・の組長の息子でな
・・の総番や
殺される
帰り」
「誰や
アイツかい」
渡嘉敷はそういって集団に近づいていって
「オイ
お前が偉いん違うやないか
お前の親父が偉いんや
わかっとるか」
渡嘉敷はコーヒーを読みながら本を読んでから店を出た
またあるときは
「40人用意しとるからお前1人で来い」
と呼び出された
そして相手にいわれた場所に行く途中に吉田君がいた
家が土木建築の仕事をしている吉田君は作業服を着て安全靴を履いていた
「おお!吉田!どこいくねん」
「お前を待っとったんや」
「待っとった?
オレ、ケンカしに行くんやで」
「俺も行くわ」
「でもお前今、仕事やろ?」
「違う
血だらけになってもええようにこんなカッコして来たんや」
「でも相手40人やぞ
絶対勝てんぞ」
「かまへん」
こうして2人はそこにいった
しかし誰もいなかった
渡嘉敷は電話をかけた
「はよ来い」
しかし結局誰も来なかった
(勝った)

高倉健さんのように 弱気を助け強気をくじく 俺はそんなヤクザになりたい

 (1641217)

この頃の渡嘉敷勝男の夢は
「高倉健さんのように
弱気を助け強気をくじく
俺はそんなヤクザになりたい」

具志堅用高との遭遇 1st

ある日
渡嘉敷の家で
酒やタバコを買ってきてみんなで楽しんでいたとき
テレビでは具志堅用高の初防衛戦をやっていた
具志堅は
3Rにダウンしたが立ち上がり
顔をはらし傷だらけになりながら向かっていって勝った
渡嘉敷は鳥肌が立つくらい感動した
高倉健以上に感激した
「これが男だよ
自分より強い男に向かっていくヤツこそ男だよ」
すると中にいたボクシング部員がいった
「具志堅さんはすごいけど
渡嘉敷とそんなに体格変わらないんだよ」
「なに?
オレと同じ身長、体重で、この世にオレより強いヤツおるんか
よし俺がこの人倒すわ」
「アホちゃうか
感激したのはわかるけど
いくらケンカが強くて根性があっても無理や
向こうはプロのボクサーやで
その中の世界一やで
レベルが違うで」
「いや俺はやるぞ
俺はこの人倒す」
「ボクサーは大変やで
酒もタバコも女もダメ
渡嘉敷は全部やってるのにどうするんや」
「やめた!」
吸っていたタバコを消し
飲んでいたビールを捨てた
そして次の日の5時に起きて走った
やがて高校も辞めて働き
具志堅のいる東京に行くためにお金を貯めた

世界戦で倒し倒されの試合をし、そして最終ラウンド、僕の手が上がり 、そして倒れ、病院に運ばれ 死ぬ

 (1641224)

半年後、神奈川に住んでいた兄の家に入り
まずは仕事を探した
横浜で2週間ほど探したが見つからず
家から1時間15分かかる渋谷で探したが見つからず
1時間半かかる新宿で探して
やっとローレルという喫茶店の仕事が見つかった
仕事が決まったのでボクシングジムを探すと
新宿のとなりの代々木(現在は新宿)に協栄ボクシングジムがあった
行ってみると
歴代チャンピオンのパネルが飾られていた
カミソリパンチ 海老原博幸
シンデレラボーイ 西城正三
カンムリワシ 具志堅用高
「おお
具志堅さんがいるジムか
毎日顔を合わして勝負できるぜ」
プロボクシングでは基本的に同門対決はできないことを知らなかった
 (1641225)

そして入会した後
普通、入門生の練習は30分くらいなのに
渡嘉敷は4時間やった
ロードワークも練習生は普通3kmくらいのところ15km走った
この頃の渡嘉敷勝男の夢は
「いつか具志堅さんと世界戦で倒し倒されの試合をし
そして最終ラウンド、僕の手が上がり
そして倒れ、病院に運ばれ
そして死ぬ」
だった

具志堅用高との遭遇 2nd

 (1641237)

入会3ヵ月後
18歳の誕生日
外で縄跳びをしていた
その日は
なぜか記者とファンがたくさんいた
そして5度目の防衛戦を控えた具志堅が練習に現れた
初めてテレビでみてから約1年後のことだった
「おお!!
こんなに早く宿敵に会えるのか」
具志堅が歩いて近づいてきた
渡嘉敷はなんとか印象づけようと
顔を具志堅の前に突き出し
「こんちは」
と挨拶した
そして具志堅のスパーリングをリングサイドでみていると
スパーリングパートナーが次々と倒された
具志堅は怒っている
「こんなんじゃ練習にならんよぉ」
スパーリングパートナーは
他のジムの選手で日本ランカーも含まれていて
1R、30000円くらいで雇われてきていた
みんな具志堅に顎や鼻や眼をやられていてしまうので
自分のジムの選手はいなかった
具志堅のトレーナーがいった
「どうだ、渡嘉敷、すごいだろう?」
「すごいッスねえ」
「コワイだろ」
(コワイぃ!?)
「いいや」
「おっ、じゃあお前やれんのか?」
「望むところです」
「しょうがねえなあ
具志堅ちょっと遊んでやれ」
(遊んでやれ?
シャレならん!
俺は田舎を捨て、学校を捨て
タバコ、酒、女をやめ
好きだった彼女とも別れ
遊んでやれはないやろう)
 (1641239)

こうして3ヶ月の練習生と世界チャンピオンのスパーリングが始まった
(今日勝たれんでも、どっか傷つけたろう)
渡嘉敷は
カーンっと鳴った瞬間、
ウワーッと突っ込んで
ババババーッて5、6発殴りにいくと
バチバチバチーッと当たった
(トドメ!)
と7発目を思い切り殴っていったら
具志堅の左ストレートがバシーッ、
鼻がプッチーッ(軟骨が折れた音)
鼻血がダラーッ
(いいねぇ世界チャンピオン
本気で来い、100%の力で来い)
渡嘉敷はまたいった
パンチが当たるのがうれしかった
メッタ打ちされても倒れなかった
(ライオンはウサギを倒すにも100の力を出すもんよ
来い!!)
あんまり倒れないのでイライラした具志堅は足をひっかけて渡嘉敷を倒した(反則)
記者の声が聞こえた
「おい、具志堅がムキになってる」
(それでいいんだ!)
結局2Rのスパーリングで渡嘉敷は倒れなかった
リングを下りるとき背中から具志堅の声が聞こえてきた
「すごいな
コイツいいな
これから俺のスパーリングパートナーに使おう」
(具志堅、お前が俺のスパーリングパートナーだよ)

具志堅との戦いの日々

 (1640206)

こうして戦いの日々が始まった
渡嘉敷はわざと具志堅が練習に来る時間帯にいった
また戦いたかった
練習相手に選ばれたかった
世界一のお手本がそこにいた
それを盗みながら練習し
量もどんどんやった
同門対決ができないと知ったのはジムに入って2年後だった
具志堅と一緒に走るとき
最初は必死についていった
具志堅の10度目の防衛戦の前のキャンプではついに抜いた
(具志堅は13回防衛)
具志堅の練習相手にタイとかフィリピンから来た選手とも
「やらせてくれ」
といって強引にやった
具志堅と戦うことができないと知ったときは
ショックで田舎に帰ろうかと思ったが
自分をここまで引き上げてくれた具志堅のためにがんばろうと
夢を切り替えた
部屋には
「あしたのジョー」のポスター
1年後新人王、2年後日本チャンピオン、3年後世界チャンピオンと書いた紙を張った
全日本J・フライ級新人王を獲得後
朴鐘喆に初黒星を喫するも
すぐに立ち直って再び連勝街道を走った

具志堅用高の引退

具志堅用高は
14度目の防衛戦に負けて
翌日の記者会見では
「カムバックはしない」
「日本には渡嘉敷勝男がいる」
といった
具志堅の期待に応えるように
渡嘉敷勝男は
世界ランキング2位の金龍鉉を
10回判定に下し世界ランク獲得した
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