【ボクシング】世紀の一戦と言われた辰吉vs薬師寺を振り返る
2016年11月25日 更新

【ボクシング】世紀の一戦と言われた辰吉vs薬師寺を振り返る

史上初!日本人同士の王座統一戦にファンが熱狂した辰吉丈一郎と薬師寺保栄の試合を本人達のコメントと共に振り返る。

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史上初!日本人同士の王座統一戦

1993年12月23日、薬師寺保栄は辰吉丈一郎が網膜剥離でキャンセルしたWBC世界バンタム級王者辺丁一(韓国)との対戦に代役で登場し世界王座を奪取に成功した。

そして、1994年12月4日。復帰した辰吉が暫定王者として薬師寺と王座統一戦をすることになった。

対照的な二人のボクサー

デビュー当時から天才と呼ばれていた辰吉は、人気・実力共にナンバーワンで、史上最短のデビュー8戦目での世界タイトル獲得は当時の快挙であった。一方、薬師寺はその実績と裏腹に観客を集めるような人気はなかった。

ボクサーとしてのスタイルも、ガードを下げ積極的に打ちに行く強打の辰吉と、ジャブを多用し多彩なパンチとフットワークを駆使する薬師寺は対照的だった。

(1994年 対決当時の戦歴)
薬師寺 25戦 22勝(16KO) 2敗1分
辰吉  12戦 10勝(8KO) 1敗1分

この戦いは薬師寺が正規の王者で実績も上にも関わらず、辰吉の人気によってその構図は逆となり、薬師寺が挑戦者と扱われた。

試合前の壮絶な舌戦

試合前に辰吉は薬師寺を執拗に挑発。
【辰吉のコメント】
「薬師寺は勘違い君」
「世紀の一戦って。相手がアレで、笑わしたらあきまへんで」
「主役と勘違いの力の差を見せつけたるわ」
「あの年齢になって髪の毛を染めるようなっちゃあかんよ。そんなん社会人デビューしたらダメ。ああいうのはもう中高生で終わるのが当たり前。
きっと彼の場合、その間に目立つ時がなかったんやろね、輝けるときが。」
「チャンピオンになっているから強いんやろうけどね。所詮、僕とはケタが違う!レベルが。」
負けずに薬師寺も応戦していた。

【薬師寺】
「辰吉は思い上がり君」
「辰吉って一発で相手倒したこと ないでしょ?」
「(辰吉は暫定チャンピオンだったため)王座決定戦の当日は辰吉くんも
チャンピオンベルトを巻いてくるがそのベルトには『暫定』と書いてこい」

そして、1994年12月4日。世紀の一戦が行なわれた。

◆第1ラウンド
辰吉はガードを下げたまま軽快にステップを踏む。ウィービングを駆使しながらトリッキーなフェイントをかけて飛び込み多彩な左を投げつける。一方の薬師寺は右ストレートをかすらせ、左も一発ヒットさせる。薬師寺がにじり寄るように前進しているが辰吉に操られているような印象。

◆第2ラウンド
とにもかくにも薬師寺の左がよく当たる。1発目、2発目は外しても3発目、4発目が辰吉の顔面を弾く。辰吉は上体を左右に振りながらプレッシャーをかけるが、危険な距離に留まり、薬師寺がペースを掴む。後に判明したところでは第1ラウンドで辰吉は左手首を骨折しており、左が出ない。
◆第3ラウンド
薬師寺が左を使って辰吉を小突く。更に左右のボディから顔面へ左フックを決める。辰吉が反撃に移り、豪快な右を叩きつけると、薬師寺の動きは目に見えて鈍る。辰吉が左ボディフックを放てば、薬師寺はワンツーにアッパーを返して一進一退。我慢比べの様相。

◆第4ラウンド
薬師寺が古傷の右目上をカットすると辰吉がペースを上げる。薬師寺はスリップダウンを喫する。しかし、その後に薬師寺が盛り返す。「絶対に打ち負けない」と公言していた薬師寺は公言通り左から繋げる右で辰吉の顎を捉える。気がつけば辰吉の左まぶたが赤味を帯びている。
◆第5ラウンド
辰吉陣営は辰吉にゴーサインを出した。薬師寺の右ストレートを受けながらもノーガードで迫り、左フックを見舞う。1分30秒過ぎに辰吉が二度ほど薬師寺をコーナーに追い込み、まとめてパンチを打ち浴びせる。回転の早い連打で詰めには定評のある辰吉だが、回転は今ひとつ鈍い。この攻防には薬師寺陣営の研究の成果が現れており、薬師寺はガードの隙間から辰吉の動きを観察しながら顔面へのパンチをブロックしており、ボディへのフックもエルボーで殺している。薬師寺は緻密な作戦通りに、辰吉の猛攻をやり過ごすと体を入れ替えて反撃体制をとる。

◆第6ラウンド
薬師寺、ジャブ2発で好スタートを切ると、左の空振りからリターンした右アッパーがクリーンヒット。辰吉の顔が歪み、ずっと赤味を帯びていた左瞼が決壊する。薬師寺は今度は左アッパーをジャストミート。ロープ際の攻防でも薬師寺が右ストレートでカウンターを奪い、その強烈な一撃が炸裂。辰吉は膝を突っ張らせたまま立っている状態。膝を突っ張らせて棒立ちの辰吉であるが、驚異的なタフネスぶりを見せつけている。
◆第7ラウンド
辰吉の左瞼が大きく腫れ上がっている。薬師寺のジャブをよけきれず、たまらず頭を下げて抱きつきにいくが、薬師寺が再三、それをアッパーで狙い打ちにする。辰吉にダウンがあってもおかしくない。辰吉のセコンドは慌てたようで陣営は「左」、「右」と声を上げているが統制を失っている。

このラウンドと続く8ラウンドは鼻血を流した辰吉がラフなボクシングを展開する。

◆第9ラウンド
薬師寺が左目上から出血。6ラウンド以降、攻勢であった薬師寺がバックステップを目立たせるようになる。しかし辰吉の繰り出す回転数の早い連打が効いている感じでもない。

薬師寺にずっと声援を送っていた地元の名古屋ファンの間から「かわいそうに。両方とも勝たせたいよ」という声がもれている。両者ともに第一ラウンドから激しいボクシングをしており、辰吉の戦いは限界を超えているように見える。
◆第10ラウンド
試合はいよいよ壮絶さを増してくる。このラウンドの前半までは辰吉のがむしゃらな前進を薬師寺が左ジャブで止めていたものの、薬師寺も疲弊していてラウンド後半は乱打戦に。辰吉の右ストレートが薬師寺のテンプルを捉える。薬師寺は棒立ちに。

◆第11ラウンド
前半は前ラウンドの劣勢を薬師寺が立て直して左ジャブのヒットを積み重ね、右もヒットさせる。辰吉は首を振りながら「効いてないよ」とアピール。そしてハーフタイムを回って薬師寺のパンチが流れ始めたところで、辰吉がまさかの猛反撃を展開。辰吉は左、右、そしてまた左と力を振り絞った拳を放つ。ダメージは明白で薬師寺は派手なスリップダウンをする。

「タツヨシ、タツヨシ」というシュプレヒコールに熱がこもる。大阪と名古屋が開催地合戦を演じ、結果として薬師寺の地元である名古屋市総合体育館が世紀の一戦の舞台になったが、人気は辰吉が数段上。場内に響いたシュプレヒコールは「タツヨシ」一色であった。

◆最終ラウンド
辰吉が一呼吸で左、左、右と放ち、薬師寺を後退させる。薬師寺はロープに追い込まれる。辰吉はロープにもたれた薬師寺にボディから顔面、顔面からボディと連打の雨を降らせる。見た目は辰吉だが薬師寺も最後の力を振り絞って連打をしのぐ。薬師寺はボディアッパーを出しながら前進して辰吉を押し返しており、それが辰吉のステップインを狂わせ、パンチの照準をズラしてる。

ゴングが鳴り、世紀の一戦は勝敗は判定へ委ねられる。遺恨に遺恨を重ねてきた両者がリングで抱き合う。傷だらけの薬師寺に、瞼を大きく腫らせて既に顔の印象が変わってしまっている辰吉が抱きつく。辰吉は泣いているようにも見える。

薬師寺の洗練されたボクシングに対し、辰吉の天才肌で無類のタフネスぶりが激突した世紀の一戦は、殆どの者が予想していなかった判定決着へともつれたが、2ー0で薬師寺が勝利。一人のジャッジがドローと裁定していたことにブーイングが上がるほど、実は優劣そのものは明白であった。

しかし、終盤2ラウンドで見せた辰吉の逆襲が心証に残るものであったが故に「試合に勝利したのは薬師寺だったが、試合の主人公は辰吉であった」や「敗者なき名勝負であった」などと敗れた辰吉にシンパシーを受けたコメントが目立った。

試合に関するエピソード

開催地についても両者の主張は平行線をたどり、薬師寺は地元・名古屋、辰吉は東京か大阪を希望。結果、入札で争うこととなり、薬師寺側が約3億4千万円で興行権を獲得し、名古屋で史上初となる日本人同士の王座統一戦が行なわれた。
辰吉人気に興行権の入札もTBSと日テレが奪い合い空前の金額(3億円超)が記録された。辰吉のファイト・マネーは、1億7千万円とも言われている。
辰吉は1ラウンド序盤に放った左ストレートが薬師寺の頭部付近に当たった際、骨折。以降なかなか左が出なくなり、セコンドから左を出すように言われても「骨折れて出んのじゃボケ!」と思う程の状態で試合を続行した為という。
この試合は日本中から大きな注目を集め、テレビ視聴率は関東地区で39.4%という驚異的な数字をたたき出した。(数字はビデオリサーチ社調べ)

対戦から18年後、あの一戦を共に振り返る二人。

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