西川のりお  それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。
2023年8月21日 更新

西川のりお それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりおの師匠は、なんと西川きよし。超マジメで超厳しいが一生ついていきたいきよし師と超メチャクチャで超面白い、でもついていけないやすし師。強烈な師匠に挟まれ、育まれた過激な弟子時代。

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当日は大阪、千里の毎日放送まで田中の友人の車で送ってもらった。
西川のりおは、この友人とは以前に1回会ったことがあった。
20㎞くらい距離があるので、ドライブネタを練習しようとしたが、実際に歩いている女性をみて
「ホンマ不細工やな。
猪八戒みたいな顔しとる」
というと車内は大爆笑。
いつの間にかドライブ気分でワイワイとハイテンションになりまくり、予選前の緊張感は消滅。
「笑いすぎて道間違えてるんちゃうか」
「大丈夫や。
まかせてといて」
「大丈夫て、お前が1番信用でけへんのじゃ。
田中の友達いうから辛抱しとるだけや」
「お願いやから、もうなんもいわんといてくれ」
笑いすぎて運転している友人は懇願した。
(この2回目にあった男と、こんなに打ち解け、しゃべれ、ウケまくっている)
西川のりおは自分に実力に酔いしれた。
こんなときいつもなら
「北村は、ウケたら勘違いして、オモロないこというてもウケてると思い込むタイプやから、あんまり図に乗せたらアカンねん」
という田中は黙っていた。
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夕方、車は、毎日放送に到着し、友人と共にヤンタンの予選会場へ。
漫才、モノマネ、漫談、落語、それなりにできる連中が集まっていると想像していたが、同い年らし男やき年上らしき男が20人ほどいた。
みんな壁に向かってネタの練習をしていて、雑談しているのは西川のりおたちだけ。
やがてスタッフが現れ
「予選に出られる方の名前尾を呼びますので手を上げて大きな声で返事してください」
といって点呼を行い
「続いて予選を受ける順番をいいますから、よく聞いて自分の順番を覚えておいてください」
と指示。
西川のりおと田中は8番目だった。
毎日放送のアナウンサーの進行で予選が始まり、80人くらいの客の前で落語やモノマネ、漫才が行われた。
しかし前の7組は、すべて
「ブーッ」
とブザーが鳴って不合格。
しかし西川のりおと田中はドライブネタは大爆笑となり、ネタの途中で
「ピンポンパンポン」
と連続で鳴り、
「合格です。
おめでとうございます」
と告げられ、友人にも
「お前らオモロいなあ」
といわれ、完全に有頂天。
帰りの車は来るときよりもハシャいだ。
番組は公開録音だったため、
「ヤングタウン土曜、桂三枝がやってるヤツ知ってるやろ」
「ヤンタン土曜に出るんや」
と学校中で宣伝。
うれしくて、すでに顔はコワモテではなかった。
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3週間後の土曜日の昼過ぎ、同じメンバー、同じ交通手段で大阪、千里の毎日放送へ。
ヤンタンの収録はすでに始まっていて、桂三枝が200人くらいの観客を笑わせているのを横目にみながら控室へ。
「どや、緊張してるか?」
田中にを聞かれ、いたって平常心だった西川のりおは
「いーや」
やがてスタッフに
「そろそろスタンバイしてください」
といわれ、舞台袖へ。
「それではヤンタン演芸コーナー、今日は漫才で、〇〇工業高校の北村君と〇〇商業高校の田中君。
それではどうぞ」
桂三枝に紹介され、小走りでスタンドマイクの前へ。
「こんにちは。
北村です」
とアイサツしてから
「かわいい女の子やな」
と漫才を開始。
ドライブネタは確実に笑いをとり、しかも話が進むにつれてスタジオの笑いが大きくなっていき、桂三枝がゲラゲラ笑うのもみえた。
「もうエエわ」
田中がツッコみで終了。
桂三枝がやってきて、
「オモロいな。
しかし君、オッサンみたいな声してるな」
と西川のりおをイジって、笑いをとった後、
「しかしオモロい。
来週も呼びたいな」
というと会場から拍手が起こった。
西川のりおはテレながら
(エエ気持ちや。
今まで色んなことでそう思ったけど、間違いなく今日が1番エエ気持ちや)
田中はうれしいのを通り越して顔を真っ赤にして涙をボロボロ流していた。
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素人名人会の予選の日、マネージャーの車に乗って毎日放送へ。
ヤンタンに比べて予選を受ける人の平均年齢が高く、出し物も踊りやマジック、民謡といったものが多かった。
出番が来て
「かわいい女の子やなあ」
といつものようにドライブネタ。
「カンカンカン」
と鐘が連打されて
「合格です」
得意になって控室でハシャいでいるとスタッフが現れ
「出演は、正月1月3日の生放送で、うめだ花月からやりますのでよろしくお願いします」
西川のりおは嬉しさをこらえきれずに叫んだ。
「いつも名人会は録画でやってるやん。
そやのになんで俺らは生放送なんや。
おまけに正月やて。
ましてうめだ花月や」
田中も
「正月で生放送や」
と呼応し、その後はお互い何をいっているのかわからない会話が続き、友人のマネージャーは、
「やったな」
を繰り返していた。
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その後、ヤンタンに5週間連続で出演し、学校で
「聞いたで、ヤンタン」
「桂三枝もオモロいいうたてな」
と知っている者だけでなく知らない者まで話しかけられるなど、ちょっとした有名人。
授業中、物理の先生に
「応援団でスゴミきかせてるだけや思うとったが、人を笑わせることもできるやな」
といわれると
「はあ」
と髪の毛をかいてみせ、応援団でも後輩に
「面白いし演舞をするのもカッコイイ」
といわれてもと無表情でいたが
「本当はもうめちゃくちゃエエ気分やった」
このときすでに2ヵ月以上、西川きよしのところにいっていないことには、まったく気づいていなかった。
「というより完全に忘れてしまっていたね」
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名人会の出演が近づいてきた年末のある日、いつもの天満の喫茶店で
「素人名人会にうめだ花月から生放送で出ますってきよし師匠に報告に行かなアカンな」
とタバコを吸いながっら田中にいうと
「今どこに出てはんのかなあ」
うめだ花月に電話して確認するとお茶子さんが
「なんば花月ですわ」
と教えてくれたので
「12月23日に行こか。
冬休みやし日曜違うてもエエやろ」
「エエよ。
23日行こ」
そして当日、電話も入れずに花月の前で待っていると西川きよしがやってきたので
「おはようございます」
と大きな声であいさつ。
「オオッお前らか。
何や今日は?」
西川きよしはそういいながらサッと前を通り過ぎて入っていった。
「この子ら入れたって」
とはいってくれなかった。
続いて横山やすしが来て、
「オッ君らか。
久しぶりやな。
今までどないしとったんや。
長い間連絡ないからキー坊心配しとったで。
連絡は入れなアカン。
絶えずな。
それがスキンシップちゅうもんや」
と早口でいいながら1歩も足を止めずに中へ入っていった。
1回目の公演が終わり、2人はテレビ局に行くためにタクシー乗り場でタクシーに乗ったが、ずっと知らん顔。
発車するとき、横山やすしは車内で手を上げてくれたが、西川きよしは、まったくこちらをみようともしない。
タクシーが走り去った後、
「きよし師匠なんであんなに怒ってはるんや」
「そんなん、わかるわけないがな」
「とりあえず2回目の舞台前まで待とう」
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待っている間、看板芸人が何人も通っていった。
以前なら気を引こうと
「おはようございます」
と大声であいさつしていた西川のりおだが、
「俺はヤンタンに出て、名人会にも出るんや」
という気持ちがジャマしてできない。
ましてや名前が売れていない芸人にあいさつするなどバカらしく思えた。
西川きよしに対しても、ヤンタンや素人名人会のことを話して
「ようやったなあ」
とホメてもらおうと思っていたので、
「あのつれない態度はなんだ」
と怒りを感じていた。
3時間以上、待って田中が
「遅いなあ、腹減ったなあ」
とグチり出したとき、
「オーッ、待っとったんか。
石の上にも3時間45分やな」
といって横山やすしが登場。
西川きよしが後ろにいたので、
「お疲れさまでした」
と思い切り大声であいさつしたが目もくれず行ってしまった。
(なんや知らん顔しやがって)
怒る西川のりおは、田中に
「終わるまで待とう!」

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出番が終わって出てきた横山やすしは
「オオッまだいてるのか」
といった後、商店街へ消えていった。
30分後、西川きよしが出てきて
「お疲れさまでした」
とヤケクソ気味の大声を張り上げると
「ちょっとおいで」
と手招きされ、ロビーへ。
舞台では新喜劇が始まっていた。
「君ら、長い間、顔も出さんと何しとたんや」
「・・・・・・」
しゃべり方は優しかったが、西川のりおは西川きよしがコワく何いえなかった。
「弟子にしてくれとあれだけしょっちゅうとったのになあ。
来れるときは行かせていただきますっていうとったやないか」
「・・・・・・」
「なんかラジオに何回か出たんやろ?
会社の人から聞いたよ。
そやから来んかったか。
もう弟子にしてくれと頼む必要がないて思たんか。
それやったらそれでやれや。
そやけどな、そんなやり方や考え方では、この世界で一瞬は通用しても、いずれはアカンようになって誰も相手してくれんようになるで。
芸能界おちょっくたらアカンぞ。
ナメたらアカンで」
「・・・・・・」
西川のりおは西川きよしの目を見る勇気がなく、ずっとうなだれていた。
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「何回も俺に会いに花月に来てなんか縁があるんやろと思って楽屋にも入れて、俺は君らのために先輩に気も遣たんや。
弟子にしてやろと本気で考えとったんや。
それやのに気持ち踏みにじるようなマネしたらアカンやろ。
嫁はん(西川ヘレン)にも弟子とるかもしれんぞというとったんや」
西川のりおと田中は目からロビーの床にポタポタと涙が落ちた。
「泣いたらアカンやないか」
そういう西川きよしの声も涙ぐんでいた。
「今日来たらホメられる思てたんやろ。
ほんまホメたろ思ってたんや。
素人名人会も出るんやろ。
正月に。
お客さんいっぱい来てるし、ヤンタンの客層と違うて年配の人が多いで。
同じやり方やったら笑えへんぞ。
プロの芸人が出てるところやからな。
俺もその日、みれるんならみとくわ」
西川のりおと田中は、素人名人会に出ることを知っていたことに驚きながら、胸がいっぱいで大きな声が出ず、小さな声で
「ありがとうございました」
「ホナもう遅いし気をつけて帰りや。
お父さんお母さんにヨロソク伝えといて」
そういって西川きよしはロビーを出ていった。
しかし西川のりおは親が西川きよしのところへいっていることを信用していないので伝えようがなかった。
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