西川のりお  それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。
2023年8月21日 更新

西川のりお それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりおの師匠は、なんと西川きよし。超マジメで超厳しいが一生ついていきたいきよし師と超メチャクチャで超面白い、でもついていけないやすし師。強烈な師匠に挟まれ、育まれた過激な弟子時代。

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試験の日、答案用紙が配られたとき、成績トップクラスとアイコンタクト。
西川のりおの席は、教壇からみて右から3番目の列の前から4番目。
まず自分で解るところを埋めた後、
「ハア~」
と息を吐いて合図を送った。
成績トップクラスは答案用紙をみえるようにズラしてくれ、西川のりおは監視している教師に注意しながら、少しずつ書き写していった。
試験が終わり、担任教師から恒例の追試組の発表があったが、そこに西川のりおの名前がなく、みんなに
「え~」
と驚かれた。
特にアホ5人衆は
「先生なんか間違ってませんか?」
「北村、なんかやったやろ」
と口々に叫んだが、
「俺はがんばってん」
と言い切った。
その後、
「俺もホッとしたわ」
というトップクラスと肩を組んで校内食堂へ行き、キツネうどんとコロッケ定食をオゴった。
アホ5人衆とは、それからほとんど付き合っていない。
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2月、師匠が出演しているなんば花月にいき
「今日からつかせていただきます。
卒業式だけ休ませてほしいのですが」
「もちろん卒業式は出たらエエ。
最後のケジメやからな。
もう前と違うて、しっかりやらなアカンからな。
おいおい楽屋や仕事場で君ら紹介していくから、まあガンバレ。
最初はとりあえず弟子見習いやかなら。
ほんで様子みて正式な弟子にする。
実際、弟子になってしばらくしたら、俺が注意したり怒ることが多なるで。
想像してたんと違うと、きっと思うときがくるから。
ほんで俺のこと大嫌いになるわ。
まあそこからがホンマの修業や」
西川きよしは、これまででイチバン熱く語った。
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舞台に上がる少し前に衣装を着せ、降りたらおしぼりを渡し、衣装を片付ける。
この繰り返しは基本だったが、きよし師匠に靴を履かせるタイミングが遅れ、
「お前、クツ出すのん、いっつもリズム悪いな」
と目をむきながら怒られ、凹んでいるとやすし師匠に
「展開読みや。
ボートと一緒や」
とアドバイスをもらった。
「いくらなんでもクツはくのとボートレースは違うやろ。
なんでも例えたらエエちゅうもんちゃうで」
きよし師匠がいうと、楽屋にいた芸人が
「舞台に上がる前から、そんな絶妙な呼吸で漫才やれたらかなんな」
とチャカすと
「みてみい。
お前のためにいらんツッコミ入れられたやろ」
と怒られた西川のりおは
(マジかシャレかわからん。
クソー)
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やすしきよしは、テレビ局に行くことが多く、先にタクシーを待たせておくなどやるべきことはたくさんあったが、最初はついていくだけで必死だった。
「当時、やすしきよしは朝日放送の番組でレギュラー司会をやっていたが、緊張しすぎて記憶がない」
西川きよしは自分が紹介するより先に
「この子ら、なに?」
と相手に聞かれると
「お前ら、キチッと自己紹介せんかい」
とすごい剣幕で怒った。
Gパンにセーター姿の西川のりおが
「あいさつが遅れて申し訳ございませんでした。
きよし師匠の弟子になりました、北村と申します」
というと
「自己紹介するときは師匠つけたらアカン。
呼び捨てでエエ」
と注意し
「君ら楽屋ではとりあえず1番下やねんから誰にでも頭下げとき」
まるで俺に恥をかかすなよといわんばかりの指示され、西川のりおは会う人すべてに大きな声でハッキリ
「おはようございます。
この度、西川きよしの弟子になりました北村と申します。
よろしくお願いします」
出前を持って来た店員にまでアイサツし
「毎度おおきに」
と返された
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西川きよしの出前は、いつも同じメニュー。
「俺はキツネうどんと中飯。
君らもそれでエエか」
とパンツ一丁で座布団に座る西川きよしからをいわれ、
「はい、いただかせてもらいます」
と答え、お茶子さんがいる場所にいって公衆電話で
「なんば花月の楽屋ですが、キツネうどん3つと中飯1つ、大飯2つお願いします」
と注文。
15分くらいして届くと、師匠にお茶を入れた後、自分たちは楽屋の端の下駄箱で食べた。
朝から晩まで超多忙な師匠について、夜家に戻ると着替えもせずにバタンキュー。
朝は始発の電車に乗り、JR、地下鉄と乗り継ぎ、1時間10分かけて師匠の住む大阪、住吉の公団住宅までいった。
そんな生活が、ほぼ毎日続き、まともに睡眠がとれることはなく、常に
「眠い」
「寝たい」
と思っていたが、師匠と一緒になると緊張感が優って仕事をこなした。
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眠気と疲れを気合で抑えて乗り切っていたが、ストレスがたまるとどうしても情緒不安定になってしまい、そんなときは
「すいません。
トイレに行かせてもらっていいですか」
といって脱けて、ロビーの端でタバコを吸った。
しかしあるとき新喜劇の女優にみつかり、
「アッ、あんたらキー坊とこのお弟子さんやね」
といわれ、笑顔でゴマかし何もないことを祈ったが、すぐに西川きよしに
「チョット来い」
と呼び出され、
「1日の用事が終わって、お疲れさんいうてから、どっかわからんとこで吸え」
と完全禁煙は免れたが仕事中は吸えなくなってしまった。
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なんば花月で1回目の舞台が終わり、衣装から楽屋着のパジャマに着替えた西川きよしは
「楽屋にずっとおらんでエエから、他人(ひと)の舞台を観て勉強し。
客席の1番後ろで空いてる席あったら座らせてもろてもエエから」
といって新喜劇の楽屋へ。
西川きよしは、元々、新喜劇出身なので、よく昔の仲間とおしゃべりしにいっていた。
新喜劇で全く売れていなかった西川きよしは、看板女優、ヘレンが熱を出したとき、休養させるためといって自分の家に連れて帰り、そのまま返さず、会社に
「身の程を知れ」
ヘレンの家族に
「略奪された」
と罵られ、そして大反対されながら結婚。
その後、横山やすしに見出され、漫才に転向した。
「ありがとうございます」
頭を下げて客席の1番後ろに座った西川のりおは、舞台を観て勉強していたが、いつの間にか寝てしまった。
すごく気持ちよく寝ていたが、いきなり
「ゴツン」
と頭を殴られ、振り返るとこれまでみたことのないような表情をした西川きよしがいて、これまで聞いたことのないような声で
「お前らナメてんのか。
もう舞台終わったんや。
そんなに寝たかったら弟子やめて家でゆっくり寝え」
そしてロビーに引っ張り出された。
西川のりおは、師匠の2回目の舞台も気づかずに寝ていたという事の重大さに気づき、
「すいませんでした」
「すいませんでした」
と何度も謝り倒し、西川きよしに唇をかみしめながら許してもらった後、
「師匠は普通のときは君らと呼ぶが、怒るとお前らに変わる」
と学んだ。
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その後も眠気にせいでボーっとしていると
「人の邪魔になるような立ち方するな」
などといわれ、しょっちゅう西川きよしに怒られた。
あまりに怒られているので
「今日1日で俺の知ってるだけで100回チョイ手前くらいキー坊怒らせとるな。
チョット数が多すぎるよ。
ミスをもっとスモールにしなさい。
要領よく、いろんな用事をインプットすること」
と横山やすしにアドバイスされたり、他の芸人も笑わせようと
「今日こそ100回怒らせて新記録つくらな」
といってくれたが、西川のりおにそれを面白く受け止める余裕はなかった。
しかし楽屋で月亭可朝に
「エラいドスの利いた声やな。
声だけやったらヤクザでいけるな。
ほんで殴られんねん。
どないする?
逃げなしゃあないがな。
なんでなんもしてないのに逃亡者にならなアカンねん」
といわれ、それに笑福亭仁鶴が
「リチャード・キンブルも身に覚えのない妻殺しで無実やのに逃げてんねん。
だから君も逃亡者になり」
と軽くいうと長い間笑ってなかった西川のりおは、決壊したダムのように笑った。
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ある日、西川きよしに
「君らの両親にご挨拶行かなアカンのやけど、急やけど今日の夜はどうや」
といわれ、西川のりおは、すぐに家に電話。
「オカン、今日、夜、師匠が挨拶に行きたいいうてはるねん」
「師匠て、なんの師匠やねん」
「ホンマにきよし師匠について世話になってんねん」
「ハイハイ、わかったわかった。
来たら来たのときのことや」
自分の話を適当に聞いて信用しない母親に、西川のりおの心は不安でいっぱいになったが、先のことは想像しないようにした。
花月の2回目の舞台が終わり、着替えを手伝っていると、西川きよしはチャックを上げながら
「家に俺が行くて電話してくれたか?」
「ハイッ」
傍らの横山やすしは
「家庭訪問いうやっちゃなあ。
会社でいうたら保証人面接や。
緊張するやろ」
とご機嫌な様子でいった。
「エラい機嫌エエなあ」
俺は今から弟子の家行くいうのに。
ハハーン、女と待ち合わせしとんな」
「かなんな。
俺はただ家庭訪問いうただけやのにコレや。
お口、チャック、チャック」
横山やすしは笑顔で楽屋から出ていった。
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「そしたら行こか」
西川きよしは、弟子を愛車、ブルーバードSSSに乗せ、
「道いうてくれよ」
といって街に繰り出した。
「どの辺やねん」
「大阪城の近くなんです。
京橋と天満橋の間にある片町っていうところです」
「大体わかるわ。
近くなったら、もう1回細かい場所教えてくれ」
こうして西川のりおは、いつもなら私鉄と地下鉄を乗り継いでいた帰り道を、スポーツカーで一気に移動。
「この辺か?」
「はい、そこを曲がった左側の、看板に自転車て書いてある店です」
車は家の20~30m手前まで来ていたが
「手ぶらでは失礼やから手土産でも買うわ」
と近くの果物屋に停車。
「すいません。
ちょっと詰め合わせつくってもらえますか?」
「いくらくらいの詰め合わせにしましょう」
「5千円くらいでお願いします」
「北村さんとこの息子さんやね」
と話しかけてきた店主は、「嫌いな人ベスト10」で何週間も1位になった人物。
今までにみたことのないつくり笑いに西川のりおも
「はい、そうです」
とこのオッサンに使ったことのない敬語で返した。
店主の息子が詰め合わせをつくっていたが、途中、西川きよしと気づき、父親に耳打ち。
「北村さんところでなんかあるんですか」
聞く店主に西川きよしは
「はい、ちょっとご挨拶に」
と答えた。
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