90年代前半ヴィジュアル系黄金時代に話題になった「名古屋系」を紐解く!!
2021年5月31日 更新

90年代前半ヴィジュアル系黄金時代に話題になった「名古屋系」を紐解く!!

90年代前半ヴィジュアル系黄金期、Silver-Roseや黒夢の全国進出に伴い、それに続く名古屋バンドの活躍が話題となりました。 中京圏V系インディーズシーンは異常な盛り上がりを見せ、当時の音楽メディアなどにより"名古屋系バンド"と称されていました。 そこで今回は、「名古屋系」とは何なのかを紐解いていきたいと思います。

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Merry Go Round 注文の多い料理店 (Chuumon no Ooi Ryouriten)

Merry Go Roundが1996年4月21日に限定5000本のデモテープとしてリリースしたアルバム作品の1曲。
「注文の多い料理店」というタイトルからわかる通り、宮沢賢治の代表作をモチーフにしています。
ぼそぼそとした語り口調で、作品の裏側にあるホラー感が表現されています。
アイディアの勝利といったところではありますが、徐々に不気味さが増していき、
不協和音を奏でるピアノによるラストシーンまでの流れはおぞましさを感じるほど。
しかし彼らの世界観を表現する、導入としてのインパクトは抜群です!

名古屋系の血筋を受け継ぐ名古屋系第二次世代の登場!!

1996年、後のLamiel維那/Rukaとlynch.玲央が在籍していたLustairが際立ち始めました。
また、新潟からは名古屋系の伝統様式を継承するバンドD'elsquelがマキシシングル「Life Trees」をリリース。
新潟出身ですが名古屋系からの系譜を感じるバンドで、ポジパンを基盤にしたダークヴィジュアル系スタイルを持っていました。
1997年にはLamielが、翌年1998年にはkeinが本格始動を開始します。
維那と眞呼、次世代名古屋系ヒーローの誕生となりました。
また同じ頃、D'elsquelと同郷であるbabysitterがシーンに登場。
彼らもまた、Laputaなどの影響を軸に変拍子なども取り入れたハイレベルな名古屋系スタイルを持ったバンドでした。
1999年、kein/Lamielに続きPoisonous Doll、メリゴ直系Systerなどが登場。
ただし、この辺りは当時の"ヴィジュアル系モダンヘヴィネス化現象"も含んでいました。
なので、ゼロ年代ニュースクール名古屋系に繋がっていく側面も垣間見えます。
2000年、Matina(インディーズレーベル)からex.AZALEAのメンバーを中心に結成されたサリーが始動開始。
コテ系のイメージが強いMatina出身のバンドでした。
しかし名古屋系の血筋を感じるサウンドと、清春チックなボーカルとテクニカルなギターが冴え渡る良質な名古屋系バンドだったんですよ!

D'elsquel - 心理描写と嘘

97年にリリースされた5曲入りミニアルバム「嘘と鏡」の中の1曲です。
アルバム全体を問として、うすぼんやりとした暗さ・不気味さを持つサウンド、妖艶で流麗な歌声・メロディーが印象的。
初期ROUAGEなどの影響を感じるダークさがあり、Vo.漾の独特の言語感覚やアーティスティックな詩世界の萌芽も見られます。

ヴィジュアル系ファンでも区別しにくい「名古屋系」と「コテ系」の違いとは?

ライブパフォーマンスにおける名古屋系の特徴としては以下のようなものがあります。
・ポジパン/ゴスの流れを汲む黒服を基調とした衣装とメイク
・あくまでモノトーンであり、コテ系/近年のゴスのように華美になりすぎない。
・ポジパン/ゴスの流れを汲むシアトリカルな演出(マネキン・十字架・棺・血糊・包帯など)
・アーティスト写真、アートワーク、コンセプトにはストーリー性をもったアートチックなもの
・世界観遵守(MCやヤンキーノリ控えめ・ファンとの一体感を求めすぎない)
・ファンの雰囲気もポジパン/トランス系の流れを汲む文学少年少女寄り

とはいっても、「名古屋系」と「コテ系」って具体的にどんな違いがあるのか気になりますよね。
これはヴィジュアル系ファンでも一見すると全く区別がつかないところではありますが、そこには決定的な違いが存在します。
「コテ系」はヴィジュアル系の王道要素を盛りまくる、言わば足し算の美学。
これに対し「名古屋系」は、ルーツを重んじ伝統とバランスを保つ引き算の美学なのです。

同じ黒服でもコテ系はドロドロでコテコテの黒で、名古屋系はシックで落ち着いた黒なのです。
しかし、コテ系と呼ばれるバンドにも名古屋系の要素をもったバンドや、名古屋系と呼ばれるバンドにもコテ系の要素をもったバンドが存在しています。
なので、正確に分類するのは不可能といえます。
また余談になりますが、名古屋系ファンには「ルーツを重んじ伝統様式を継承する名古屋系こそがヴィジュアル系」
「保守的であることがヴィジュアル系」という原理主義的な思想を持つ者も存在しています。

当時のV系シーンへのカウンター精神から生み出されたのが「名古屋系」!

音楽の歴史というものは、カウンターに対するカウンターの繰り返しで成り立ってきました。
それは、ヴィジュアル系も例外ではありません。
既存ジャンルのカウンターから生まれたヴィジュアル系ですが、それがカルチャーとして成立すれば主流が生まれるのは当然のこと。

先に述べた清春の発言で
「D'ERLANGER、ZI:KILLのコピーのような...そんなバンドが名古屋にはたくさんいた。
そういうのじゃなくて、アサイラムとかZOAとかガスタンクみたいなバンドがやりたかった。
シアトリカルでハードでダークなバンドがやりたかった。」
「当時多かった英語とかのいかにもなバンド名は付けたくなかった。
メイクしてニコニコして、お客さんに媚びているようなのとは全く別のものがやりたかったんだ。」 

当時のヴィジュアル系シーンの主流、それに迎合することへの反抗心。
結果として、「名古屋系」とはそういったカウンター精神により生まれた新たな潮流だったという事になります。

黒夢 (Kuroyume) - 亡骸を (Nakigara o) PV

1993年 (平成5年) 6月11日にリリースされた、黒夢のインディーズ最後のフルアルバムの1曲。
深くおどろおどろしい世界観に、美しく響く空間系のアルペジオやストロークの対比。
それにより、独自のデカダンス世界を築いています。
アルバムはマニアックな曲が多く、この頃既に清春の強いポップネスは発揮されています。
「十字架との戯れ」や「MISERY」「JESUS」等で見せる美旋律は必聴!
タイトルチューン「亡骸を」での儚くも力強い歌唱も特筆する所です!
ヒステリックかつSE的に響くギターとブラストビートで疾走しまくる「UNDER…」や、
ブラストビートでヒステリックかつ狂気的に疾走する「親愛なるDEATHMASK」もかっこ良い!
後続のMatinaや名古屋系の退廃主義のバンド達に強く影響を与えたアルバムです。
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