ガッツ石松  伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場
2016年11月25日 更新

ガッツ石松 伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場

プロテストは2回目で合格。世界チャンピオンになるまで10敗以上。そして層の厚いライト級で世界タイトルを5度防衛。間違いなく偉大なボクサーである。

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3度目の世界挑戦に備え
伊豆の吉奈温泉で行われたキャンプでは
10kmの山道を駆け上がった
その後ろをスクーターに乗ったエディが追った
ガッツ石松の戦績を見ると冬に強かった
寒い季節にはKO勝利が増えている
寒いとスタミナが失われずにすむらしい
チャンピオン:ロドルフォ・ゴンザレスとの試合は1月
ガッツ石松は密かにほくそえんでいた
しかしゴンザレスが
ロスでトレーニング中に毒蜘蛛に刺され試合を延期したいと申し入れてきた
試合まで2週間という時だった
ガッツ石松は得意の冬の試合はパスされてしまった
「頭にきたぜ
俺が絶好調と知ってあの権兵衛は逃げたんだ
ロスまで行ってぶん殴ってやりたいぜ
こうなりゃオレはリングネームをスパイダー石松に変えて
野郎が日本に来たらブスリと毒針を刺してやる」
試合は4月ごろに延期になるため
異例の3度目のキャンプが行われた
延期はむしろラッキーだった
エディは左レバーブローを教えることができた
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延期されていたガッツ石松の世界挑戦の日時が決定し
米倉会長は池袋のスナック:メモリーで記者会見を開いた
この時の思い出にふれるとエディは涙ぐんでいう
「たくさん記者を招いたの
でも来たのはたった5人よ、5人
ガッツ、かわいそうね
誰もガッツ、勝てない思った
それで5人しか来なかった
涙出るよ」
寂しい光景に米倉ジムのスタッフはがっかりした
独りガッツ石松だけは平然としていた
「来ないのは当然よ
これまでのオレの実績を考えてみろよ
オレが勝てると誰が思うものか」
長い下積みをくぐってきて無視や冷遇に対する耐性ができあがっていた
所詮この世は力がすべてなのだ
閑散とする記者会見パーティーの光景をみながら気にもとめなかった
「なんつたって実績がなければ誰も相手にしてくれないぜ
その代わり勝てばこんな狭いスナックなんか足の踏み場もなくなるほど人が詰め掛けるだろう
それが世の中というもんよ」
チャンピオン:ロドルフォ・ゴンザレスが羽田に到着
空港貴賓室で会見を行った
「毒蜘蛛に刺されたのは不覚だった
右膝がフットボールみたいに腫れてしまった」
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ガッツ石松とエディは赤坂プリンスホテルに入った
ホテルの脇の坂道でガッツ石松自慢の外車がエンジンストップしてしまった
試合が近い選手に車を押すなんてさせられないよと
エディは石松を運転席に残してウンウンいいながら後ろから車を押した
「ガッツ
車はやっぱり乗るもので押すもんじゃないね」
やっと動き出した車の助手席でエディは息を弾ませて笑った
石松はそんなエディの気持ちに応えたいと思った
「エディさん
オレ必ず勝つよ
相手も人間
オレのパンチが当たったらKOさ」
「そうよガッツ
あんたは強いよ
勝つ負けるはあんたの気持ちの問題よ」
石松は過去2度の世界挑戦ではどうせ負けると思いろくな練習もせずに乗り込んだ
それで後にラグナ、デュランという名チャンピオンを相手に10Rまで耐えた
倒れたのはパンチが効いたのではなく
練習不足によるガス欠でイヤ倒れしたことを本人は自覚している
今回はたっぷり練習した
負ける気がしなかった
一方、米倉会長は頭を抱えていた
試合の4月11日は
春闘の交通ゼネストがされる日に当たっており
チケットの払い戻しが続々始まり試合の収益がどんどん逃げていった
「試合会場は閑古鳥が鳴くのでは・・・・」

ロドルフォ・ゴンザレス1

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試合当日、
大規模なストが打たれ
早朝から鉄道、地下鉄、バスといった交通網がストップ
背景には
前年のオイルショックと
それに伴う便乗値上げによる物価の狂乱が今年まで流れ込み
生活の危機感の高まりがあった
夕方になると徐々に交通機関が運行され始め
試合会場の日大講堂には7000人の客が入った
2ヶ月前の同会場で行われた柴田国明の世界戦の半分の入りだった
ゴンザレスは
57戦52勝42KO5敗
KO率は73.7%
ボクシングをやる前に殺人の刑で服役したこともあり
リングでも1人殺している
ガッツ石松は
36戦25勝13KO11敗
KO率36.1%
戦前の予想は石松不利

19時47分、
試合開始のゴングが鳴った
ガッツ、左が速い
ゴンザレス、ボディ狙い
デュランのボディフックで沈む石松をみて弱点はボディと研究したようである
ガッツ石松、ボディを狙って上体が低いゴンザレスを左で突く
1R中盤
ゴンザレス、右クロスで石松をぐらつかせる
1Rが終わりコーナーに帰った石松は
セコンドの米倉会長にクレームを入れた
「会長!
途中で、足使え、左出せっていってよ!
オレ、忘れちゃうから」
3R
ゴンザレス、左フックの連打でボディに入れる
「全然堪えねえ
おめえのボディなんざスカだ」
ガッツ石松、平然と耐え
逆に左ジャブでゴンザレスの顔面を突く
ゴンザレスは右のガードがガラ空きだった
「ライトを上げろ」
セコンドが必死にゴンザレスに指示している
ガッツ石松はあくまで待ちのスタイルで
ゴンザレスに攻めさせてカウンターをいれてポイントをとり
「イシマツはペーパーストマックだ」
と信じるゴンザレスはひたすらボディーを狙った
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8R
ゴンザレス、ジリジリと攻め石松をロープに詰めた
その瞬間、石松の左フックがゴンザレスの顔面へ
間髪いれず右ストレートを突き刺す
ゴンザレスがスローに前のめりに崩れていく
「ウォー」
ガッツ石松はニュートラルコーナーの走っていき右グローブを高く掲げた
レフリーのカウントが遅い
後のタイムキーパーの証言では15秒かかっている
身びいきのロングカウントだろう
意識朦朧のゴンザレスが立ち上がった
ガッツ石松は左右フックで襲いかかる
ゴンザレスはヨロヨロと後退
石松の右が当たる前に倒れた
レフリーはこれをスリップと判断
さらに仰向けになっているゴンザレスを両手を持って引っ張り起こそうとしている
ルールではレフリーはブレークの時以外選手に触れてはいけない
「ダウンだ!」
米倉会長が叫び
エディは英語で喚きながらコーナーポストに駆け上がった
ガッツ石松は
レフリーが不等にチャンピオンを勝たせようとしていること
このまま続行しても自分の勝ちは動かないことを確信した
そして自陣のセコンドがリングに入りでもしたら反則負けにされるかもしれないと思った
ガッツ石松はニュートラルコーナーから自分の青コーナーに行って叫んだ
「エディさん、黙って
大丈夫
オレ、あいつを殺すから
必ずぶっ倒すから黙っていて」
レフリーに無理やり起こされたゴンザレスはファイティングポーズをとった
ガッツ石松は猛然とラッシュ
2分12秒
ゴンザレスは崩れ落ちた

幻の右

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「やったぞ」
石松は吼えた
(ざまあみろ、このヤロー)
何か得体の知れない黒い巨大なものに対して心の中で怒鳴っていた
帰りの花道でファンに胴上げされた
控え室で新チャンピオンは矢継ぎ早に質問を受けた
「フィニッシュのパンチは覚えてる?」
「もちろん覚えてますよ
あれがオレがいう幻の右です」
「あれはストレート?フック?」
「それがわからないところが幻のパンチでしょう
あれはいつもはジムで打たない
出すとパートナーが来なくなっちゃうから
そのためしょっちゅうパートナー呼んでくれ
いや相手がつかまらないで会長と喧嘩ですよ」
石松は少しも疲れていなかった
これからもう1人相手にして防衛戦やっても大丈夫と思うくらいだった
スカッとした快勝で舌がよく回転し記者会見は独演会となった
この夜、赤坂プリンスホテルで祝勝会が開かれ
石松は元石松組員たちと徹夜マージャンに興じ
翌朝6時に妻子のいる我が家へ帰った

ガッツポーズ

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「ガッツ」を国語辞典で調べると「guts」「根性」
「guts」は英和辞典では「腸」とか「中身」という意味もあるらしい
これが転じて「根性」とか「強い精神力」というような意味が生じる
ガッツ石松が世界チャンピオンになったときとったポーズを
新聞は「ガッツポーズ」と表現した
またこのガッツ石松が世界チャンピオンになってガッツポーズをとった日、
4月11日は「ガッツポーズの日」でもある

世界が変わった

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その後
世界がガラリと変わった
後援会からお声がかかり
高級料亭、会員制クラブ、超高級店でご馳走され
ご祝儀ももらった
時給350円のバーテンダーは一夜で数百万の現金を得ることができた
初めてテレビにも出て
持ち前のサービス精神とノリのよさに
その強さだけでなく
そのユニークさでも圧倒的な人気を得た

チェリー・ピネダ1(初防衛戦)

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名古屋市愛知県体育館でガッツ石松の初防衛戦が行われた
挑戦者は世界ランキング10位のチェリー・ピネダだった
試合2日前のパレードで
人前が大好きなガッツ石松は上着を脱ぎ捨ててハッスルした
90分のパレードを終えホテルに帰ると
減量前の栄養状態の悪さのせいか風邪を引いていて注射が打たれた
そのためか試合は凡戦だった
挑戦者が攻めチャンピオンは後退しカウンターを狙う
そんな消極的な展開が淡々と続いた
エディはイライラし始めていた
12Rまでガッツ石松はポイントで負けていた
「Hey、ガッツ!
あんた負けてるよ
何やってるの!」
ガッツ石松はハッとした
「何!
オレ負けてるの?
それ早くいってよ」
13R
ガッツ石松は遮二無二出た
この攻勢がポイントとなって辛うじてドローとなった
危ない防衛だった
おそらく外国での試合ならタイトルを失っていただろう

ロドルフォ・ゴンザレス2 (2度目の防衛戦)

ガッツ石松の2度目の防衛戦が迫ってきた
相手は前WBC世界王者:ロドルフォ・ゴンザレス
リベンジマッチである
「ワー、エディさん
もう我慢できないよ」
「ガッツ、目方落とさないとタイトル取られるよ」
「オレ、タイトルなんかいらない」
ボクサーはみな減量苦と戦う宿命にあるが
石松のそれはひどかった
皮膚はカサカサになり唾も出ない
仕方なくスイカを少し口に入れてトイレで喉に指を入れて吐き出す
こんなことの繰り返しだった
大阪府立体育館で
ガッツ石松の2度目の防衛戦のゴングが鳴った
1R
ゴンザレスは慎重に試合を運び石松にポイントを許さない
前回とはぜんぜん違うゴンザレスだった
石松はスタミナ温存を図っているのか
常に後退しカウンターを狙うばかりだった
いかにも消極的だ

ガッツ、これケンカよ

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11Rが終わりコーナーの戻ると
石松はエディにクレームをつけた
「左ジャブ出せ、足使え、頭振って
それをいってよ」
エディは耳元で怒鳴った
「あんた何いってるの
あんたこの試合負けてるの
左ジャブ、頭、足?
そんなもの関係ないよ
よく聞きなさい
ガッツ、これケンカよ
あんた得意でしょ?
ケンカよ、ケンカ」
(おお、そうか!)
石松に急に電源が入った
エディは石松の頭を両手でつかんでグイっとゴンザレスの方にに向けた
「あいつの顔よくみろ
みろ!
これケンカよ
ケンカよ」
エディは耳元で何度もケンカと怒鳴った
ガッツ石松の中で闘争本能がムラムラと蘇った
キッとゴンザレスを見ると幸せそうな顔をしている
ムカッと腹が立ってきた
(ようし上等だよ
このヤロー
ケンカやってやろうじゃないか)
12R
(テメエ、クッソー、このヤロー)
石松はグローブを胸の前でバシバシ打ち合わせ口の中でブツブツいっている
やる気だ
終盤、ゴンザレスが不用意に詰めたところを
ガッツ石松は左フックで一閃、次いで右ストレートを打ち下ろす
ゴンザレスは顔面がぶち抜かれ
ヨロヨロとリングを横切り後退し反対側のロープへもたれた
ガッツ石松は刀を抜いたように右グローブを振りかざし突進した
顔面をカバーしロープを背負ったゴンザレスをガッツ石松の蛮刀が滅多斬りにした
ゴンザレスは動かなくなった
石松はロープに躍り上がり両手を上げて派手に吼えた
再び奇跡を起こしたのだ
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