長い下積みから大輪の華を咲かせた、屈強のサラブレッド「イナリワン」
2016年11月25日 更新

長い下積みから大輪の華を咲かせた、屈強のサラブレッド「イナリワン」

大井競馬場でデビュー後、4歳まで地方で競走馬生活を送り、5歳になってやっと中央入り、その後GⅠ制覇を果たし、オグリキャップ・スーパークリークとともに「平成3強」と呼ばれるまでになった「イナリワン」を振り返る。

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天皇賞(秋) 東京芝2000m 10月29日

レジェンドテイオーを先頭に、各馬長い展開となります。イナリワンは後方待機。スーパークリークは3番目、オグリキャップは中団でレースを進めます。4コーナーで固まりとなって直線へ。スーパークリークとメジロアルダンが叩き合い、スーパークリークが先頭に。大外からオグリキャップが突っ込んでくる。イナリワンがいない。先頭争いにイナリワンがいません。オグリキャップの猛追をクビの差抑えて、スーパークリーク1着でゴール。イナリワンは6着でした。
体調不良のまま挑んだレースは、いいところがなく惨敗。オグリキャップとスーパークリークが輝いたレースでした。
続くジャパンカップ(東京・11月26日)も不調のまま出走。まったくいいところがなく、11着と惨敗。ニュージーランド牝馬のホーリックスを追い詰めるオグリキャップが光ったレースでした。
イナリワンの直近2レースは、春のGⅠ2勝馬とは思えない大乱調で、すでにピークアウトしたのかも、という憶測が、ファンや競馬会に広がりました。
そして、グランプリ・有馬記念を迎えます。

3強の頂へ

食が徐々に戻り、復調していたイナリワンですが、単勝人気は4番目、16.7倍と人気はガタ落ちでした。前2レースの凡走からすれば、いたしかたないことでした。しかも馬場は良ながらも、イナリワンの天敵、雨がぱらついていたのでした。
3強対決3度目の正直、イナリワンは勝利することができるのか!?

第34回有馬記念 中山芝2500m 12月24日

ダイナカーペンターが逃げ、なんと2番手にはオグリキャップがつけます。先行集団にスーパークリーク。イナリワンは後ろから4頭目。
3コーナー付近からオグリキャップが先頭を伺い、スーパークリークも前へ出ます。イナリワンも上がってきた。
4コーナーから直線でスーパークリークが先頭に立ち、独走態勢に入ります。が、その外からイナリワンが馬群を割って猛然と仕掛けます。ラスト100m付近からの猛スパートでゴール前スーパークリークを捉え、そのまま並んでゴール。
ハナの差差し切って、見事イナリワンが1着!!
3強の頂点に立った瞬間でした。
圧倒的不利の大外から2番目の15番ゲート(イナリワンが勝利して以降26年間(2015年現在)3着以内なし)での勝利。「3強」と呼ばれながらオグリキャップとスーパークリークが別格に見られる中、改めて存在を示した圧巻のレースでした。
そしてこの1989年、GⅠレース3勝をあげたイナリワンは、年度代表馬に選出されるのでした。

2度目の「盾」取りへ

1990年、数え7歳となったイナリワンの初戦は、3月11日阪神大賞典(芝3000m)。天皇賞を照準においてのローテーションでした。が、何と斤量が62キロ。前走より6キロも増やされてのレースでした。結果は6頭立ての5着と惨敗でした。
ハンディがあったとはいえ、不安の残るスタートとなったのです。

天皇賞(春) 京都芝3200m 4月29日

先頭はショウリテンユウ。スーパークリーク、イナリワンは中団でのレースとなりました。向こう正面でスーパークリークが4番手にあがり、それを追うように4コーナー付近ではイナリワンも5番手まで上がってきます。直線に入りスーパークリークが抜け出すと、外からイナリワンが猛襲。ラスト100mでものすごい末脚を見せるも、あと半馬身及ばず、2着でゴール。
春の天皇賞連覇にはならなかったのですが、阻止したのはあの武豊騎乗のスーパークリーク。昨年イナリワンとともに同じレースを戦った武豊騎手だったのです。
しかし、大一番になると必ずと言っていいほど力を発揮するイナリワンを、いつしか、「荒武者」と呼ぶファンが増えていたのでした。

ターフよ、さらば

天皇賞後、イナリワンは宝塚記念に出走しますが、荒れた馬場で本領発揮できず、4着となります。そして、この後脚部不安が発生し、そのまま引退が決断されます。
 (1705901)

武豊騎手とともに初めて奪取した天皇賞。
ベテラン柴田政人騎手とともに戦いぬいた有馬記念。
2強とともに数々のドラマを残して、「荒武者」イナリワンはターフを去るのでした。
地方で2年、中央で1年半の競走馬人生でした。
引退式は、1990年12月23日、中山競馬場で行われました。
そして、種牡馬として新たな人生をスタートさせるのでした。
 (1705903)

数奇な余生

北海道日高町に移ったイナリワンは、種牡馬としてはあまりいい成績(産駒)に恵まれませんでした。その後、2004年、20歳で種牡馬も引退し、功労馬として門別町に移ります。2007年12月には「里帰りイベント」で、大井競馬場を20年ぶりに訪れ、その後何度か繁養先が変わり、2010年頃から、なんと所在不明となります。
これほどの実績馬が所在不明とは。。。
そして、2014年12月以降、北海道トマムのアルプスペンションで過ごしていることが判明。
気性が荒く、ヤンチャ坊主だったイナリワンは、年輪とともに成長し年老いて、他馬の面倒見がいい親分肌の大人の馬に変身していました。
 (1706215)

人間にも事情があったとはいえ、20代後半からの老齢で、流浪ともいえる転々とした繁養先の変更にも関わらず、32歳まで長生きし、
2016年2月7日息を引きとりました。
天国でも、先に逝ったオグリとクリークと、ターフを駆け巡っていることでしょう。

イナリワン、お疲れさまでした。
そして、感動をありがとう。
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