悲劇の出生からスターダムに駆け上れ!! 芦毛の名馬「タマモクロス」
2016年11月25日 更新

悲劇の出生からスターダムに駆け上れ!! 芦毛の名馬「タマモクロス」

故郷を失い、母を失い、自身も窮地に追い込まれながらも、遅咲きの才能を開花させ、一世風靡した1頭のサラブレッド。ある1人の男によって導かれ、昭和最後の名勝負を残した「白い稲妻」、タマモクロスを振り返る。

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京都金杯 京都芝2000m 1988年(昭和63年)1月5日

明けの5歳となる1988年の「タマモクロス」の初戦は、京都金杯。
オーナーの意向で成立したものでした。
陣営のローテーションとズレは生じたものの、彼には関係ありませんでした。

スタートからいつものとおり後方待機。しかし、今日の「タマモクロス」は向こう正面でも上がって行くことはなく、4コーナーでは16頭立ての15位。なんと後ろから2番目という位置取りで、ファンの間では、不安のどよめきが起こり始めていました。しかし、それは数秒後に歓喜のどよめきへと変わっていきます。
前方の団子状態の14頭をゴボウ抜き!
圧倒的な強さを見せつけ、1着でゴールしたのでした。

阪神大賞典 阪神芝3000m 3月13日

春の天皇賞(3000m)に照準を合わせていた陣営は、長距離の阪神大賞典に参戦します。
ライバルは前年のグランプリ馬・メジロデュレン。秘かに入着を狙うダイナカーペンター。
「タマモクロス」は重賞で初めての苦しいレースとなりました。

レースの流れを作ったのは、ダイナカーペンター。超スローペースで先頭を走ります。あまりのスローペースに、「タマモクロス」はいつもと違い、かかり気味に先行、3番手を進みます。4コーナー過ぎからの直線で、前がふさがった内ラチから外に振ったものの、南井騎手がムチを入れられないほどの隙間でした。そして、前を追いますが、いつもの爆発的末脚が出ません。何とかダイナカーペンターをゴールで捉え、なんと同時入着。ギリギリのレースとなりました。
折り合いを欠き、苦しみながらもレースを制したタマモクロス・南井コンビには、厳しいコメントが生じました。「騎乗ミス」「距離不適正」・・・。今まで圧倒的な強さを見てきたファンにとっては、不満の残るレースとなったのでしょう。しかし、陣営は、長距離での手応えと先行しても行ける自在性、という確かな感触を得ていたのでした。

天皇賞の高みへ

1番人気となった「タマモクロス」でしたが、単勝は440円。圧倒的人気とまではいきませんでした。理由は、前走のイメージ(距離不適正)と騎手特性でした。
南井騎手は700勝を挙げている大ベテランながらも、GⅠレースだけは手中に収めてなかったのです。しかし、今回の彼は、大いなる確信と信頼を持って臨んでいたのでした。
南井にとってタマモクロスは天馬となりうるのか!?

天皇賞(春) 京都芝3200m 4月29日

ライバルはまたしてもメジロデュレン、そしてダービー馬メリーナイス、ゴールドシチー(皐月賞・菊花賞ともに2着)、アサヒエンペラー(ダービー3着)等々、そうそうたるメンバーが並びます。
 (1699712)

スタートから1週目は後方待機、向こう正面から徐々に中断につけ、3コーナーの「淀の坂」付近から先頭集団に追いつき、4コーナーでは集団を割って前に行き、直線を向いた時には、先頭争いをしているランニングフリーとメジロデュレンを射程内に収めていました。
内ラチをつき前を行く2頭に並ぶと、「白い稲妻」はムチとともにグイグイ伸び、3馬身の差をつけてゴール!!
圧倒的勝利でした。
距離不適正なる言われも、大舞台(GⅠ)で勝てないという中傷も、すべてを吹き飛ばす完全な横綱レース・完璧な騎乗でした。小さな芦毛の子「タマモクロス」は天皇賞馬となり、南井騎手は念願のGⅠ、しかも天皇賞初制覇となったのでした。

迎え撃つは中距離の帝王

陣営の狙い通り、みごと天皇賞馬になった「タマモクロス」は、破竹の6連勝、内重賞4連勝という実績を積み上げ、宝塚記念に登場します。
相手は「ニッポーテイオー」。中距離の帝王と呼ばれ、前年の天皇賞秋を制し、GⅠレース3連勝中の良血馬。しかも、昨年秋から走りっぱなしのタマモクロスと違い、ニッポーテイオーは理想的なローテーションで臨んでいたのです。両者とも単枠指定になりましたが、単勝1番人気は210円のニッポーテイオー。タマモクロスは300円の2番人気。
最強スピード馬ニッポーテイオー有利、が大勢を占めていました。

宝塚記念 阪神芝2200m 6月12日

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スタート後、ニッポーテイオーは2番手。タマモクロスは後方待機でレース展開をします。タマモクロスは向こう正面から早めに上がり、先頭集団の一角へ。4コーナーを回って、直線でニッポーテイオーがトップに躍り出ます。4コーナー付近までは内を走っていたタマモクロスは、直線で、なんと外にいました。ニッポーテイオーと馬体を合わせに行き、たたき合う間も無く抜き去り、2馬身半差をつけゴール!!
完全勝利でした。
via prc.jp
大方の予想を見事に裏切って勝利したタマモクロスは、この年、4戦4勝負けなし、破竹の7連勝で名実ともに王者となったのでした。
前年から走りとおしたタマモクロスにとって、初めてと言える休養が待っていました。

史上初の天皇賞春秋連覇に向けて

4か月の休養を経て、「タマモクロス」はターフへ戻ってきます。
1年前、400万下のレースでバタバタしていた芦毛の馬が、王者となって、史上初の偉業に挑戦するとは誰が想像したでしょうか。
しかし、ここで新たなしかも強力なライバルが登場します。
同じ芦毛の馬体を持つ「オグリキャップ」です。公営出身ながら、中央入りして無傷の重賞5連勝。実力はタマモクロス以上ではないかと言われてました。
単枠指定となった2頭ですが、1番人気は単勝210円のオグリキャップ、タマモクロスは単勝260円の2番人気だったのです。芦毛対決を制するのはオグリかタマモか。
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