幻の金メダリスト『ベン・ジョンソン』ドーピング事件の陰謀説と引退後の活動について
2020年1月7日 更新

幻の金メダリスト『ベン・ジョンソン』ドーピング事件の陰謀説と引退後の活動について

オリンピック史上最大の衝撃と言われる1988年ソウルオリンピック陸上100m。ベン・ジョンソンが9秒79の世界新記録で優勝したが、筋肉増強剤の使用が発覚し金メダルを剥奪、記録も抹消された。後に語られたこの事件におけるカール・ルイス陰謀説や、日本のバラエティ番組での活躍、ベン・ジョンソンの現在について徹底紹介。

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ソウルオリンピック以前のベン・ジョンソン

1984年、ロサンゼルスオリンピックに出場し、カール・ルイス(アメリカ)が優勝した100mと、4×100mリレーで銅メダルを獲得した。
この時点では目立った存在ではなかったが翌1985年から急激に成績を上げ始める。
ベン・ジョンソン(Ben Johnson)

ベン・ジョンソン(Ben Johnson)

本名:ベンジャミン・シンクレア・"ベン"・ジョンソン
1961年12月30日生まれ、身長178cm
ジャマイカで生まれたが母親がカナダへ移民した4年後に本人も移民し、コーチのチャーリー・フランシスからスカウトを受け、陸上競技のトレーニングを始めた。

写真は1982年頃のベン・ジョンソン。
この時点では筋骨隆々の体では無かった。
1985年にはスイスのヴェルトクラッセチューリッヒ男子100mでカール・ルイスに初めて競り勝ち、1987年の世界選手権男子100mでルイスを破って9秒83の世界新記録(当時)を樹立。
アメリカ陸上界のスーパースター、ルイスのライバルとして広く認知されるようになった。

イタリアのスポーツ用品メーカーmディアドラがスポンサーになり、日本においても当時の共同石油(現ENEOS)のCMに出演するほどの人気であった。

【CM動画】ベン・ジョンソン 共同石油 GP X

終始イーブンペースで走る追い上げ型のカール・ルイスに対し、ベン・ジョンソンは低い姿勢で序盤から最高速を出す「ロケットスタート」を得意としていた。

他の選手と比べ、スタート直前は両手を大きく横に開き、低い姿勢からのスタートをし、スターティングブロックは他の選手に比べ左右のずれがほとんど無く、両足でほぼ同時に踏み出す方式を取っていた。
これらはいずれも人並み外れた上半身の筋肉があってこそなせる業であり、このスタート方式を採用しているトップ選手は非常に希少である。

1988年ソウルオリンピック男子陸上100m決勝で優勝。

それまでのベン・ジョンソンのカール・ルイスとの通算対戦成績は6勝9敗。
だが、直近3年間では勝ち越していた。

迎えた1988年ソウルオリンピックの100m決勝。
スタートから飛び出したべン・ジョンソンは一気に走り抜け、宿敵カール・ルイスを破り、9秒79の驚異的な世界新記録(当時)を樹立して優勝した。

【動画】ベンジョンソン vs カールルイス

1988年ソウルオリンピック決勝
ベン・ジョンソンは「あのレースで90mに到達したとき、大型スクリーンの時計が見えたんだ。9秒ちょうど。このスピードなら誰も追いつけない。だから横を見てスピードを落とした。もし落とさなければ9秒70ぐらいだったんじゃないか。」と語っている。
【画像】圧倒的なスピードで優勝

【画像】圧倒的なスピードで優勝

スタートから猛ダッシュしたベン・ジョンソンを、後半に強いカール・ルイスでもとらえることはできなかった。
【画像】ゴール時のNo1ポーズ

【画像】ゴール時のNo1ポーズ

勝利を確信した瞬間から流しはじめ、ゴール時には人差し指を天に突き上げ、No1であることをアピールした。
【画像】表彰台で握手するベン・ジョンソンとカール・ルイス

【画像】表彰台で握手するベン・ジョンソンとカール・ルイス

カール・ルイスの憮然とした表情が印象的であった。

ドーピングテストで筋肉増強剤が検出され、金メダルと世界新記録を剥奪される

カール・ルイスを破り、世界新記録で金メダル。
オリンピックの報道は、ベン・ジョンソンの活躍一色に染まり、世界一足の速い男の称号を確固たるものにしたかにみえた。

だが栄光は一瞬だった。
競技後のドーピング検査で筋肉増強剤の陽性反応が出て、金メダルと9秒79の世界新記録はあっさりと剥奪されたのだった。

金メダルは2位のカール・ルイスが繰り上げで承継した。
カール・ルイスはそれまでも100m決勝時においても、ベン・ジョンソンが禁止薬物を使用していることを確信していたと語っている。
【画像】ベン・ジョンソンの筋肉

【画像】ベン・ジョンソンの筋肉

100m決勝の実況したNHK羽佐間正雄アナウンサーは「ベン・ジョンソン、筋肉のかたまり」と解説。
陸上選手としては発達しすぎている驚異的な筋肉ボリュームは、関係者のみならず一般人ですらドーピング報道に納得した。
ドーピング発覚後のベン・ジョンソンは、カナダ国内の自宅へ直行。
後日の記者会見で宣誓書を読み上げ、「薬物を故意に使用したことはありません」、「家族、友人、祖国に恥をかかせるようなことしません」と述べた。

ベン・ジョンソンから検出された、スタノゾロールは筋肉増強剤ステロイドの一種。
同じくドーピング検査で陽性になったカナダの女子陸上選手アンジェラ・イサジェンコの証言によると、ジョンソンに投与されたスタノゾロールは動物用の商品(ウィンストロールV)であったという。

国際陸上競技連盟(IAAF)は2年間の競技者資格停止処分を決め、国際オリンピック委員会(IOC)は第2種ブラックリストに登録。
同時にスポンサーのディアドラをはじめ、共同石油のCMも打ち切られた。

剥奪されたベン・ジョンソンの記録は、2002年にティム・モンゴメリ(アメリカ)が9秒78を出すまで幻の記録と呼ばれ、ギネスブックは「薬物の助けを得たにせよ、人類が到達した最速記録」と但し書き付きで彼の記録を掲載していた。
(ティム・モンゴメリも、2005年にスポーツ仲裁裁判所に薬物使用を認定され、引退している。)

1980年代の100m走において9秒7の大台に乗った人類はベン・ジョンソンただ一人。
その後、人類が再び9秒7の大台に乗ったのは1999年のモーリス・グリーンである。

後にドーピングを認めたベン・ジョンソン

ベン・ジョンソンがドーピングに手を出したのは、1985年に女子400mで東ドイツのマリタ・コッホが出した圧倒的な世界記録がきっかけであった。

同じ大会に出場し、その瞬間を目撃していたベン・ジョンソンと、コーチのチャーリー・フランシスはドーピングを確信。
自らもドーピングをおこなうことを決意したという。
マリタ・コッホ(Marita Koch)

マリタ・コッホ(Marita Koch)

1970年代後半から1980年代前半にかけて活躍した、東ドイツの女子陸上競技短距離走選手。
活躍期間の長さと記録の傑出度から、史上最高の女性スプリンターとの呼び声が高い。
女子400mの世界記録保持者で、その記録47秒60は、30年以上経った今もそれに迫る記録すら出ておらず、永遠に破られないとも言われている。
だが、当時の東ドイツは組織的ドーピングが盛んであったため、突出したパフォーマンスを発揮したコッホにも薬物疑惑がつきまとっている。
コーチのチャーリーはドーピングの研究を始めた。
医師をチームに入れてどのくらい薬を使うのがいいかを確認した。

体を回復させるため、もっとトレーニングするために薬を使い始めた。
人間は機械じゃない。痛みも出てくる。
回復を助けるために薬を使い、さらに練習する。私はただ走りたかったし、簡単そうに見せていたが、練習は大変なんだ。

コーチや医師が検査で陽性が出るリスクを心配すればいいことであって、私は考えなかった。
「心配するな。走れ」と言われた私は、練習に集中して走った。
もちろん、選手として「嫌だ」と言うことはできる。
でも世界一になりたい、勝ちたいなら「やります」と言うしかない。
選手は害があると分かっていても手を出してしまうものなんだ。
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  • ピンキーちょうだい 2021/8/1 19:28

    当年のアイドル雑誌「Dunk」のスポーツ選手の不人気部門でトップになったくらいですね。
    「ジョンソンはカナダの名誉を傷つけた」と非難もされました。

    2021/1/9 10:08

    日本人にドーピングという言葉を知らしめるきっかけになった。

    すべてのコメントを見る (2)

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